《MUMEI》
小説に方程式はない
仲田洋一は熱く語る。
「激村先生。僕はどうしても小説家になりたいんです。で、力試しにケータイ小説サイトで書いてみたんですけど、だれも読んでくれません」
「なるほど」
「読まれない。感想もない。レビューもない。これではモチベーションが持ちません」
激村は静かな語り口で答えた。
「よくわかります。でも作家というのは最高にやりがいのある仕事です。夢は大きければ大きいほどいい。最初から目標が低ければ、遠くへは行けない」
「はい」
激村得意のクラシックレスリングに持ち込んだ。
つまり技と技の攻防というクリーンファイトだ。
「作家として完全独立を果たせば、火剣のようなパワハラ上司のもとで働かなくても済む」
「そういうわけではないんですけど」
仲田は辺りを気にして教室の外を見た。
「ところで火剣は今どこにいる?」
「映画館に入るのを見ました」
「なら2時間は大丈夫だな。あのバカが乱入しないうちに授業を進めよう」
「お願いします」
仲田洋一は工場で働いていた。いわゆる重労働で、工場長は激村の悪友の火剣獣三郎(かけんじゅうざぶろう)。名前の通りライオンのような巨漢だ。
激村は話を続けた。
「まず、小説に必要なのは、面白いストーリーと、魅力的なキャラ。特に魅力的なヒロインは小説の生命線と言ってもいい」
ようやくヒロインという言葉が出てきた。熱心な仲田洋一はノートに書き込んだ。
『面白いストーリー。魅力的なキャラ。魅力的なヒロイン』
「小説に絶対のルールはない。小説はこう書くべきだという方程式はありません。方程式を語る作家もいるが、とりあえず無視です」
「無視するんですか?」
「時代は乱世です。文学もプロ・アマ問わない時代です。だってプロが上手いとは限らないでしょう?」
「はあ…」
「世の中のしくみは変わろうとしている。また日本は変わるときかもしれない」
「龍馬伝みたいですね」仲田は笑顔で言った。
「私は芥川賞作家にもノーベル賞作家にも指導を受けようとは思わない。しかし無名でも優れた文章を書く人の話は聞きたいと思う」
仲田は真剣に耳を傾けた。
「学歴も肩書きも関係ありません。真っすぐに実力を見ます」
「はい」
激村は1対1でも白熱教室にしようと熱く語った。
「セオリー通りに書く必要はありません。自分で研究し、実験を繰り返して、オリジナリティーを出していく。その参考のために、きょうは、私のキャラづくりを教えます」
「はい!」仲田洋一は目を輝かせた。

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