《MUMEI》 キャラにはモデルがいる激村は語った。 「私のキャラづくりは、まずモデルを探すことから始まる」 「モデル?」仲田が興味に目を輝かせる。「あの長い舞台に水着姿で登場する?」 「そうではない。例えばヒロインが高校2年生だとしよう」 「17歳はまずいですよ」 「変なシーンを描かなければ問題はない」 「そうか」 なかなか白熱した授業になってきた。 「作家は脚本、監督、演出、もしかしたらキャストもやる一人4役の制作者だ」 「ジャッキー・チェンみたいですね」 テンポのいい言葉のキャッチボール。理想な展開になっている。激村は乗ってきた。 「そこで、この17歳のヒロインをだれに演じてもらおうか。いろいろと考えるわけだ」 「なるほりろ」仲田は顔を紅潮させている。「でも高2の知り合いなんていませんよ」 「何も17歳の役だから必ずしも17歳の女子を連れて来る必要はない」 「そういえばテレビドラマでも、25歳くらいの女優が平気で高校生を演じていますね」 「その通り。で、モデル探しだが、親戚、友人、知人、同僚、芸能人などの有名人も含めて、幅広くアンテナを張り巡らせる」 仲田がポカンとした顔で聞いた。 「芸能人に知り合いなんかいませんよ」 「本人に出演交渉するわけではないから、直接の知人である必要はない」 「そうか」 「17歳のヒロインの里江」 「りえ…」 「彼女のイメージにぴったりのモデルを思い浮かべる。これはその人の外見内面に詳しくないとモデルにはできない」 「そうですね」 「ましてやヒロインだ。よほど魅力的で個性的なモデルを連れて来る必要がある」 「なるほど」 「そして里江のモデルを昔の同僚のOLに決めた。ヒロインに選ぶくらいだから、かなりの思い入れがないと、情熱を込めて描けない」 「大事ですね」仲田も乗ってきた。「作者がまずヒロインに感情移入しないと、読者は感情移入できないと思います」 激村の顔が輝いた。 「仲田君。なかなか急所を突くではないか」 「感情移入できないと、ヒロインがピンチになってもハラハラできませんからね」 盛り上がっている。良い生徒が来てくれた。 「大事なことは、モデルがいると、一瞬にしてヒロイン・里江の外見内面が決まるということだ」 「あっ!」仲田は感心した表情で次の言葉を待った。 前へ |次へ |
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