《MUMEI》
いよいよキャラづくり
噛み合う会話は嬉しい。激村はレスリングを楽しむように、歓喜の心で授業を続けた。
「もしも全く白紙の状態からキャラを生むとしたら、相当な時間がかかる。髪の色は? 顔は? 身長体重は?」
「それは大変ですね」
「美少女だから受けるとは限らない。イケメンだからモテるなんて安っぽい考えは文学の世界では通用しない」
「はい」
「そもそも登場人物は1人ではない。10人20人全部1から考えるのは難しい」
「無理ですね」仲田が思わず言った。
「ヘタしたらみんな同じ喋り方になってしまう」
実際に似たようなキャラばかりで区別がつかない作品はある。
「作者がよほどの創作の天才でない限り、すべての登場人物をモデルなしで作り上げることは困難だ」
「モデルですかあ…」
「このモデル選びは制作者の仕事だ。本当に小説というのは映画づくりに似ている」
仲田が感動の笑顔で語った。
「何だか小説が書きたくなってきました」
「その感情が大事だ。小説を書きたくて書きたくて仕方ないという熱い気持ちで制作にとりかかる。きっと熱いストーリーが描ける」
「いいですねえ。ペンが走りそうです」
「もちろん100%モデル通りではなく、外見はモデル通りで内面は作者のポリシーや考え方が入る場合がある」
「なるほりろ」仲田は熱心にメモした。
「内面は脚色するが、小説のキャラは喋り方や口癖、しぐさなどは非常に大事だ。個性的なモデルを選べば、キャラの喋り方がみんな違うということが可能になる。
「そうありたいです」
登場人物すべてが違う喋り方をする。これは小説家にとって理想の形である。
「女の子だから丁寧な言葉づかいとは限らない。女子でもテメー! という子はいる」
「いますね。ぶっとばされんぞこのヤローって」
「これは常日頃の観察力がものを言う」
「観察力」仲田は真顔で言った。
「かといって女子をじっと観察していたら誤解を招く」
「誤解どころか通報されます」
「いくら観察しても通報される心配がないのはテレビだ」
「芸能人!」
「テレビの向こうからはこちらが見えない。細かい部分まで観察できる」
仲田は一瞬考えた。
「友人知人よりタレントのほうがモデルにしやすいですね」
「同じ人間だ。タレントも知人も区別して考える必要はない」

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