《MUMEI》
ハカイダー
激村も呆れ顔で聞いた。
「火剣。いつからいた?」
「最初から廊下で聞いていて、出るタイミングをうかがってたんだ」
「立ち聞きは良くないな」
「人の悪口と立ち聞き。どっちが悪か街中インタビューするか?」
「とりあえず授業の邪魔をするな」
「バッファロー! 俺様は結構いいこと言うぞ」
前途多難だ。まともな講義ができるとは思えない。クリーンファイトから一転して場外乱闘必至のラフファイト。
「ところで激村。貴様は凄いミステイクを犯している」
「ミス?」仲田が聞いた。
「仲田。ミスを犯すと言ってもレイプのことじゃねえぞ」
「退場」
「バカこの程度は序二段だ。それより激村。貴様は身長体重は描写したが、髪や風貌は描写していない」
激村は焦った。
「そうだったか?」
「仲田みたいに普通の髪で中肉中背ならいいんだが、激村のように伸ばし放題のカーリーヘアにヒゲも猛々しい。しかも毛皮のシューズ。こんな特徴を描写し忘れるなんてテメーのほうが退場だ」
火剣の連続波状攻撃に激村は押された。
「わかったから静かにしろ」
「俺様は生徒じゃねえ。ファンキーモンキーティーチャーだ。命令するな」
「火剣さんは文学に造詣が深いんですか?」仲田が興味を持つ。
「それは愚問を通り越して失礼に当たるぜ。宮崎あおいにゴルフ上手いですねって言ってるようなものだぞ」
「……宮里藍ですね」
授業が進まない。激村は言った。
「先ほど火剣が指摘したことは非常に大切なことだ。序盤で細かい描写を怠り、読者はヒロインを短めな髪と想像して中盤まで読み進めたとする。そこでいきなり『長い髪をかき分け』と書かれたらどうなる?」
「最初から読み直すわけには行かねえ」火剣が叫んだ。「俺の100ページ分の時間を返せえ!」
仲田が呆れた表情で首を左右に振る。火剣は見逃さなかった。
「ところで仲田。何こそこそこんなところで勉強してんだ?」
「勉強しちゃいけないんですか?」
「うるせえ」
「火剣」激村が睨む。「生徒になるなら授業に参加することを許す」
「わかった。模範的な生徒になるぜ」
「本当か?」
「この俺様が嘘をついたことがあるか?」
「嘘をつかなかったことがあるか?」
「そういう失礼なこと言うとデビルマンの主題歌を熱唱するぞ」
「やめろ」
「おれーの名はー、おれーの名はー…」
「授業を破壊しに来たんですね」仲田が呟いた。

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