《MUMEI》
キャラはキャスト
「授業を再開する」激村が言った。
「お願いします」
「ところで激村」火剣が睨む。「なぜ俺様のような立派な紳士のモデルがライオンなんだ?」
「人間離れしたキャラを登場させたいと思ったら、アニマルをモデルにするのが一番だ」
「どういう意味だ?」
「先へ進みましょうよう!」
「泣くな仲田」
激村は嵐をかいくぐり、話を戻した。
「キャラは生きているキャストだ。作者の操り人形ではない」
「ほう」
「キャラはキャスト。作品をともに創り上げていく大事なパートナーだ。そういう気持ちでキャラに接するとき、キャラは応えてくれる。期待以上の名演技を見せてくれる」
仲田は感動した。
「激村先生はいつもそういう気持ちで創作しているんですか?」
「そうだ」激村は熱く語る。「仲田君は、キャラの独り歩き現象というのを聞いたことはあるか?」
「ありません」
「作家は諦めろ」火剣が口を挟む。
「何ですか、キャラの独り歩き現象というのは?」
「キャラメルが独りでに転がり始めるんだ」
「黙れ。キャラの独り歩き現象で有名なのは、あしたのジョーだ」
「ジョーよ! ワシのジョーよ!」
「火剣さん何泣いてるんですか?」
「泣いてねえ。モノマネだ」
「似てません」
「うるせえ」
激村はめげずに話した。
「最初のシナリオでは、主人公の矢吹丈が勝つはずだった。ところが試合をしたら力石徹が勝ってしまった」
仲田は真顔で聞いた。
「勝ってしまったって、マンガですよねえ?」
「この創作ロマンがわからないようでは仲田。作家は諦めろ。芸術家に向いてねえ」
「火剣さんには聞いてません」
「何だと?」火剣は右拳を伸ばした。「クロスカウンターを食らいたいか?」
火剣がいると、10秒で済む話が1分かかる。
「つまり、マンガの域を超えていたということだ。力石徹が勝ったことにより、主役が敗れるというクライマックスとなった。これは従来のスポーツマンガでは考えられないことだったと思う」
「なるほど」
「あの衝撃的なシーンは、何十年経っても色褪せない」
「そういう作品を描きたいですね」
「無理だ」火剣が即答する。
「無理と決めたらすべてが無理です」
「アッパーカット!」
「やめてください」
激村は火剣を無視して話を続けた。
「力石徹が死んで、ファンは告別式を行った。キャラは生きていることをファンは知っているんだ」
「壮絶ですね」

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