《MUMEI》
作者の手綱さばき
激村は言った。
「レースで騎手がロケットスタートで先頭に立つ作戦を立てたとする。しかし馬が行きたがらない。こういう場合、無理に行かせようとするより、馬の行く気に任せるという」
仲田と火剣は興味を持って聞いた。
「逆に最後方から攻める作戦を立てても馬がロケットスタートして大逃げしてしまう場合、無理に抑えたら走る気をなくすらしい。それよりかは馬の行く気に任せたほうがいい」
火剣が発言する。
「よく騎手が言うセリフだな。『馬の行く気に任せて』って」
「小説も同じ。キャラはキャスト。作者の操り人形ではない。キャストの熱演がシナリオ通りではなくてもカメラをそのまま回す監督でありたい」
仲田は目を輝かせた。
「…なるほりろ」
「何語だ?」火剣が睨む。「言葉の乱れは文化の乱れだぞ仲田」
「まさか火剣さんに言われるとは思いませんでした」
「どういう意味だ? 俺様が乱れているのは私生活と髪型と生き方だけだぞ」
「十分です」
激村が強引に話を戻す。
「作品を書き始めて、頭の中で浮かんでいたストーリーと違う方向へヒロインが走り出す。このとき喜びが生まれる。今回もキャラの独り歩き現象が始まった、と」
「体感したいですねえ」
「仲田。俺様なんか毎回体感してるぞ」
「本当ですか?」
「ヒロインの水着を取らない予定が、悪役が独り歩きして全裸にしちゃうんだ」
「全然違う!」激村が全否定。「それはキャラの独り歩き現象ではなく、貴様の計画通りの犯行だろ」
「バッファロー! 自分だけ善人ぶるな」
「黙れ海賊」
「海賊をバカにするな。激村こそ毎回の妄想にナミが出てくるくせに」
「固有名詞を出すのはやめましょう」仲田が割って入る。
激村が火剣を睨みながら語った。
「キャラが思わぬ大暴走をすることもある。それでも抑えないほうが、生きたリアリティーのある悪役の言動が出来上がる可能性は高い」
火剣が喜ぶ。
「段々話がSMチックになってきたな」
「SFです」
「そうとも言うな」
「そうとも言うじゃなくて全然意味が違いますよう」
「うるせえ」
激村がまとめに入る。
「とにかく、暴れ馬を上手く走らせるのも作者の手綱さばきだ」
「手綱さばき…」
「特にヒロインは自由に演じさせたい。彼女が熟慮に熟慮を重ねて考え抜いて演じているんだと尊重し、脚本と違っていてもそのままOKを出す」
「優しい監督だな」
「深いですねえ」
「腐海に手を出してはならん」
「パクリはよせ」

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