《MUMEI》 遊び心火剣が珍しくまじめな意見を語る。 「3年B組金八先生なんか、全くシナリオに何も書いてないシーンがあるらしいぜ。卒業式の最終回とか」 「へえ」 「このシーンはどう考えても演技じゃないって場面はあるな」激村が火剣に賛同する。「本気で感涙しているシーンは感動を呼ぶ」 「そんな小説を書けたらいいですね」 まともな授業になってきた。 「キッチリ計画通り、1ミリも狂わず完成させることが良いとは限らない。遊び心満載の創作を常に心がける」 「遊び心?」仲田が聞いた。 「小説を書くという作業は、本当に映画づくりに似ている。キャストが自由自在に動き回ったら素晴らしい」 「オモチャのチャチャチャの世界だな。ファンタジーというか、一歩間違えるとオカルトだ」 「火剣さんはロマンがないですねえ」仲田が呆れる。 「バッファロー! 俺様ほどロマンチックな人間が世界に何人いると思う?」 「60億人くらいですか?」 「おおお…とりあえず白鳥の湖」 「ページを無駄に使うな火剣」激村が止めた。 「でも本当にキャラが紙面から飛び出したら面白いですね」仲田が笑顔で言う。 「可憐なヒロインならいいぜ仲田。でも激村みたいのが飛び出して来たら逃げるね」 「女性作家の場合、火剣が飛び出してきたら身の危険を感じるだろうな」 火剣は怒るどころか天井を仰いで考えた。 「そのアイデアいいなあ。美人作家を襲うヒールキャラ。紙面から飛び出して女作家を襲うんだ」 仲田が首をかしげるが火剣は怪しい笑顔で続けた。 「スリリングでエキサイティングだと思わないか。裸で書いてたら重くヤバいぜ」 「裸では書かないだろう」激村が言った。 「あ、小説家じゃなくて漫画家のほうがいいか」 「邪悪な考えはどんどん浮かぶんですね?」 「だれが邪悪だ。遊び心と言え」火剣が睨む。 激村は時間を気にしながら授業を進めた。 「キャラについてはまた語り合おう。次はストーリーについて学び合いたい」 「ストーリーは面白くないとな」火剣が威張る。 「そうだな。どんなにメッセージが崇高でも、ストーリーが面白くないと『言いたいことはわかるけど…』という感想になってしまう」 「仲田。メッセージより大事なのは、さっき俺様が語ったように、ヒロイン危機一髪を描くことだぞ」 「…はあ?」 「はあ、じゃねえはあじゃ。窮地に追い込まれてこそヒロインは光る」 「違う気がする」激村が言った。 前へ |次へ |
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