《MUMEI》

今まで意識した事のなかった自身に向けられる何気ない会話
まだ、僅かばかり煩わしさは消える事はないが
それでも、心地よさも感じる
そんな自分に、佐藤は笑みとも苦笑とも取れないソレを浮かべて見せる
「あ、中?どしたの?」
「ん?どうしたって、何が……?」
突然に慌て始めた友人達
一体どうしたのかと、問い掛けようとした瞬間
頬に、ハンカチが当てられる
「……あれ?私、なんで、泣いて……」
何故、どうして
様々考えこんで居るうちに、いつの間にかその感情があふれ出てしまっていたらしい
拭っても拭っても、その涙は止まらない
「中〜、泣かないでよ〜。私、何かしちゃった?」
慌て始めてしまった友人へ
一言ごめんと謝ると、佐藤は身を翻す
「中!?」
「……顔、冷ましてくるだけ。すぐ、戻るから」
そのまま教室を後にし、人毛の余りない校舎裏へ
鳴いてしまったことが恥ずかしく感じ
膝を立てて座り込み、顔を伏せながら
「……格好、わる」
柄にもなく照れてしまった自身に、動揺する
たかが日常交わされる会話、だが佐藤にとってはされど会話
ソレが如何に大切なものなのか
藤本に出会わなければ気付く事さえもできなかった事だった
「……もう少し、此処に居よ」
顔の火照りは大分取れたものの、教室に帰るのはまだ気恥ずかしく
取り敢えず一限目はサボる事にし、その場へと座り直す
漸く顔の火照りも引き始め、佐藤は教室へ戻ろうと立ち上がっていた
「……大丈夫。失敗したら、またアイツに話聞いて貰おう。だから、大丈夫」
何度も自身へ言い聞かせながら
佐藤は気合いに二、三度頬を掌で打つと、今日知るへと戻ったのだった……

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