《MUMEI》

くさの存在が騒がれる事のない様内心願い
取り敢えず店に到着だ
「智一さん、今晩、マーボー茄子の他に何が食べたいですか?」
食材をとっかえひっかえしながらメニューを思案中の鈴
九重は傍らでソレを眺めながらその手にじゃがいもが握られたその瞬間
「コロッケ、いいな」
思いついた献立を言ってみる
ソレを良しと思ってくれたのか献立はソレで決定
必要な材料を購入し、家路へと着こうとした
次の瞬間
「奥方!人参のグラッセも食べたいぞ!」
くさからの唐突な提案
入っているリュックからのソレに
当然、周りからの視線が集中してしまい
九重は鈴からリュックを受け取ると、逃げる様に店の外へ
「……テメェなぁ!」
「な、何を怒っているのだ?主殿」
「何、じゃねぇだろ!あれだけ大人しくしてろって言ったのに!」
「していたではないか!」
「何所がだ!」
段々とその音量を増していく怒鳴り合い
いい加減ヒトに気付かれてしまうという処にまできて
「そこまでですよ。二人とも」
買い物を終えたらしい鈴が笑いながら立っていた
二人を宥める様に間へと立ち
やはり楽しげに鈴は笑っていた
「お待たせしました、智一さん。」
「早かったな」
「はい。これ以上お二人がけんかしちゃいけないと思って」
早く切り上げてきたのだと鈴は笑う
鈴が抱えている大きな袋を取り敢えず受けとってやり
並んで家路へと着いていた
「主殿、ちょっと止まってくれ」
途中くさに引き留められ、九重は何事かとつい脚を止める
入っているリュックから見ている草の視線を追ってみればその先には
畑があった
其処に大量のニンジンが大量に列をなしている
「……似ている」
「は?」
一体何の事か
九重がつい怪訝な顔をして見せれば
「……我の故郷の景色によく似ている。懐かしい……」
感傷に浸る様に、畑の方を見やる
一応、辺りに人気がないことを確認しながら
くさはリュックから降り、畑のニンジンの傍へ
「……住み心地は如何か?」
真面目な顔で話し掛けていた
返答など当然ない筈なのだが
「そうか!やはり土の中はいいモノなのだな」
何故か、くさの中では会話が成り立っているらしい
傍から見ている九重には当然解る筈もない
否、解りたくもないのだろうが、その様を暫し眺め見る
「主殿!スコップを貸しては貰えないか!?」
唐突なその申し出
行き成り過ぎでそんなものを持って入る筈もなく
そもそも他人様の畑家を無断で掘り荒らす事など出来る筈もない
「……あるか。そんなモン」
「何故だ?」
「何でもだ。兎に角、そっから出て来い」
「何故だ?」
「何ででもだ。いい加減その頭の花引っこ抜くぞ!」
「む!それは困るぞ!これが無ければ我は光合成ができないではないか!」
「だったら言う事聞いとけ。俺は本気だからな」
「……主殿、目がマジだな」
「ああ。大マジだからな」
表情に笑みを浮かべながらも、目だけは殺気に全く笑ってはいない
九重のその顔にくさは慄いてしまい、何度も小刻みに頷いていた
「そろそろ、出る事にしよう」
些か残念そうな様子で土から這い出てくる
出てきてすぐに、九重は草を掴み上げ、リュックの中へと突っ込んでいた
「主殿!もう少し我に優しく!」
「喧しいわ!カレーの具にされんだけ有り難いと思え!」
「カレーの具だと!?その場合我は肉か!?それとも野菜か!?」
「どっちでもいいだろうが!そんなもん!!」
最早訳の分からない口論
埒が明かない、と九重は途中ソレを止め
取り敢えずはその場を後に
「智一さん、大丈夫ですか?」
足早に歩く九重の後ろを鈴は付いて歩きながら
くさとの口論にすっかり疲れてしまっている亭主を労わってやる
そんな彼女へ九重は僅かに笑みを浮かべながら
また帰路を歩く事を始めた
「でも、くささん」
不意に何かを思い出したかの様に鈴が脚を止める
九重に背負われているくさ
リュックの中へと顔を覗きこませながら
「人参とお話って出来るんですか?」
どうやらそこが気になったらしく、鈴が問うた
くさは自慢げな表情を浮かべて見せながら
「それは当然だ。我にはこの花が在るからな」
「お花?その頭の上の?」
鈴が不思議気に首を傾げれば

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