《MUMEI》

 「お帰り、中」
授業も全て終え、放課後
色々な事に照れ、足早に学校を後にしようと小走っていた佐藤へ
突然に声が掛けられた
「あ」
その声に向き直って見れば、そこに居たのは藤本で
佐藤の顔を見、僅かに笑うと、徐にヘルメットを藤本は投げて渡してくる
「何?これ」
一体これで何をするのかつい問うてしまえば
「何って、ヘルメットよ、ヘルメット。お鍋に見える?」
「見える訳ないでしょ」
問うているのはそんな事ではなく
そのヘルメットの使用用途だと不手腐ってやれば
藤本は僅かに苦笑を浮かべながら、そのヘルメットを徐に佐藤へと被せていた
「な、何!?」
突然に被せられたソレに驚いていると
佐藤はそのまま、近くに停めてあったらしいバイクへと乗せられてしまった
「しっかり掴まってて。じゃないと、落ちるよ」
悪戯を企てる子供の様な顔を浮かべて見せる藤本
一方的なソレに反論しようとした、次の瞬間
この場所が、人通りの多い学校前だという事に気付く
当然、藤本とのやり取りも全て見られ
その事に気付いた佐藤は恥ずかしさの余りか、顔を隠す様に藤本の背へと顔を押しつける
結果的に藤本の言葉通りしっかりと掴む形になり
ソレを確認した藤本がバイクを走らせていた
「……明日から、学校行けない」
暫く走った後、ぼそりと佐藤の小言
一体何故か、藤本が問う事をしてやれば
「アンタの所為でしょ、馬鹿ぁ!」
「な、なんで?オジさん、何かしちゃった?」
何故責められているかが分からず、困惑する藤本
どうしてなのか、佐藤へと訳を求めてみれば
「……皆の前で、恥ずかしかったんだもん。馬鹿」
声のトーンが漸く落ち着いていた
随分と可愛らしい理由だと、藤本は声に出さずに笑うと
一言、ごめんを返す
「オジさん、ちょっと配慮が足りなかった。ごめんね」
謝ってやれば、藤本の背中を擦る感触がし
どうしたのか様子を伺って見れば、佐藤が首を横へ振っているのが知れた
「……でも、ありがと。迎えに、きてくれて」
漸く聞き取れるか聞き取れないかの小声で佐藤が礼を言ってやれば
ちゃんと聞こえていたらしく、うん、と短い声が返ってきた
たったそれだけの短い会話
それでも互いの想いは伝わって
されが佐藤にはひどく新鮮なモノに感じた
「……それで、今から何所行くの?」
いつの間にか人通りの多い表通りに出ていたらしく
帰宅ラッシュの賑わいを横眼で見ながら藤本へと問うてみる
取り敢えず初期時に、と連れてこられたのはファミレス
「何でも食っていいよ。オジさんの奢り」
メニューを渡され、それを開いて見てみる佐藤
その向かいで同じように何を食べようか思案している最中の藤本の顔を
佐藤は不意にメニューから眼を離し、まじまじ眺め見る
「ん?何?どうかした?」
その視線に気付いた藤本が顔を上げてみれば
「ね、アンタは何してる人なの?」
徐な質問
痛い何の事か、瞬間虚をつかれた様な藤本だったが
すぐに職業の事だろうと思い至り
「……何してる人に見える?」
だがすぐに返してやる事はせず、問うて返してやる
佐藤の目にどういう風に自分は映っているのか
どうしてか気になったらしい
返答を暫く待っていると
「……タラシ?」
職業ではないソレを返され、藤本は苦笑を浮かべる
「あ、中……?それって、ちょっと違うんじゃ……」
「そっか。じゃ、ホスト系?」
「いや、それも違うから」
「じゃ、何やってる人なの?」
勿体ぶらずにさっさと教えろ、とせがまれ
藤本は更に苦笑を浮かべながら、財布の中から一枚名刺を取り出した
「……フラワーショップ 花風?」
ソコの店長であるとの名刺に
佐藤はさも意外だという表情を藤本へと向けてしまう
「……花や?アンタが?」
「実家の花屋、継いでみたんだけど。やっぱり、似合わない?」
「うん。すっごく似合ってない」
「うわ、即答。オジさん傷ついちゃう……」
あからさまに堕ち込んで見せる藤本へ
「……でも、ちょっと見てみたいかも。アンタのお店」
ぼそりと呟けば、藤本は満面の笑みを浮かべて見せながら
「中なら大歓迎。じゃ、メシ食ったら行こうか」
子供の様な無邪気な顔をして見せた

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