《MUMEI》

何故、どうしてこんな事に
聞きたい事は山程あるのに、それが声になって出てこない
「……俺は、常に貴方を求めています。貴方が、俺を求めてくれていた様に」
求め様としているモノとは違う言葉
広川が今求めているのはそんな言葉などではなく
槐が、押して柊が広川を求める、その理由
その事を、途切れ途切れに何とか伝えれば
「……首晒しが貴方の首を求めているんです」
「首、晒し……?」
耳に不吉なその言葉に
ソレが一体何なのかを問うてみれば
「……首晒しは、かつて贄にと捧げられた鬼首達の墓の様なものです」
返ってきたのは酷く穏やかではないソレで
広川が明らかに身体を震わせれば
「……あなたは、俺が求めた鬼首の中で、唯一手に入れられなかったモノだ」
あたただけが、と改めて槐が低く呟いた
その直後広川は突然に、自身へと向けられている大量の視線を感じ始める
「……何?見られて、る。何なんだよ!これ!」
「感じますか?それが、俺が喰い殺してきた鬼首達です」
「喰い、殺した……?」
「ええ。俺が俺である為に、そうするしかなかった」
槐が槐である為に
一体どういう事なのか考えるよりも先に
無傷なもう一方の手首を掴まれ、同じ様に肉を食い千切られた
「……瑞希。この痛みがある限り、あなたは、俺だけのものだ」
そうあり続けて欲しい、そう切に望まれて
痛い筈なのに、苦しい筈なのに
それでも槐を拒み切れない自身が、広川は不思議でならなかった
戸惑いがちに手を伸ばし、槐の身体を抱きしめてやる
「……あなたがこうやって傍に居てくれる限り、俺は俺で居られる。そう、思っていたかった」
「……?」
一体、そういう事なのか
槐の言葉をイマイチ理解出来ない広川が表情で問う事をすれば
槐は広川の唇へ自らのソレを重ねながら、そして弱々しく笑んで見せる
「……時折、酷い破壊衝動に駆られる事があるんです。何もかもを、自分の手で壊してしまいたい、と」
ソレを押さえる為、自身を保つために鬼首を欲しているのだと
表情苦し気に槐は語り始める
「……エン、ジュ?」
語るうち、段々と可笑しくなっていくような槐の様に
未だ血液に塗れるばかりの手を、広川は槐へと伸ばした
だが、その手はやんわりと拒まれた
行き場を失った手を暫くそのまま彷徨わせていると
「……俺と、鬼ごっこを、しましょうか。瑞希」
「鬼、ごっこ……?」
唐突な提案
訳が分かる筈もなく聞き返す広川へ
だが槐は何を返す事もせず、薄い笑みを浮かべたままだ
「……逃げ惑うあなたの姿を想像すると歓喜に狂いそうになる。瑞希、俺に決して捕まらないで下さい」
「……何、で?」
漸く返ってきたかと思ったそれは更に訳が分からない
鬼ごっこををしようと唐突に言いだし
そして、決して自分には捕まるなと求めてくる
槐の真意は何所にあるのか
ソレを窺い知る事は、今の広川には出来なかった
「……俺に捕まることなく、首晒しを壊す事が出来ればあなたの勝ちだ。俺はあなたの前から、消える」
「何で、そんな事……」
「当然、柊に捕まる事は許しません。解りましたか?」
問い掛けた言葉は途中遮られ
有無を言わせない槐に、広川はそのまま頷いて返すしか出来ない
「……いいでしょう。とりあえず今日は家まで送ります。鬼ごっこは明日からにしましょう」
楽しみは後に、と言葉も終わりに広川を抱え上げ外へ
向かおうとした槐の前へ
常に槐につき従っているあの少女が、立ちふさがっていた
「……どうか、したんですか?布袋」
柊の行く手を阻む様に立ちふさがる少女・布袋へ
怪訝な顔を槐がして向ければ
どうしてか布袋は嫌々と何度も首を振る
「……せっかく捕まえた鬼首を逃がすつもり?どうして?」
「……すぐに手に入ってはつまらない。だからですよ」
「態と逃がしてそれから追いかけようっていうの?」
「はい。いけませんか?」
「悪趣味……」
「どうとでも」
槐は優越に満ちた表情を浮かべながら少女の横を通り過ぎて行く
背に向けられた少女の視線に構う事もせずに槐はそのまま広川宅へ
刃居る寸前、槐は脚を不意に止め
「このままでは、騒動になってしまいますね」

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