《MUMEI》
生まれたままの姿
火剣が意気揚々と続ける。
「まだまたあるぞ。生まれたままの姿」
「もうやめましょう」仲田が言った。
「リタイアしたら星一徹バックドロップだぞ」
「嫌ですよ」
「火剣」
「激村もリタイアか? テメーら語彙が少な過ぎるぞ。そんなんじゃベストセラー作家は夢のまた夢だな」
「待て」
「待たねえ!」火剣は止まらない。「仕方ねえ。俺様一人で10馬身ぶっちぎるか。一糸まとわぬ姿…」
「待てと言ってる」激村が睨んだ。
「バスタオル一枚。男のロマンワイシャツ上だけ。ミニ浴衣…」
激村が静かに歩み寄る。
「レースクイーン。パジャマニア。いけない主婦。寸止めテク…」
「シャラップドロップキック!」
「どわあ!」
激村のバイオレンスがついに火を噴いた。
「何をする?」という火剣の巨体を軽々と持ち上げて「ワンハンドゴリラスラム!」で教室の床に投げ落とした。
「がっ…」
激村はゆっくり教室の端まで歩くと、振り向き、ダウンする火剣めがけて走り、飛んだ!
凄い跳躍力。
「キングコング・ギロチンドロップ!」
「ぐえっ…」
激村の太い脚が火剣の喉に叩き落とされた。
火剣は完全KOだ。激村は涼しい顔で教壇に戻ると、蒼白汗まみれの仲田に言った。
「授業を再開する」
「は、はい」
「語彙を増やすことは大事です。常に言葉が頭の中にパズルのように浮かんでいるというのが理想で、必要に応じて、ベストタイミングで自在に操れるようにしておく」
「はい」
授業がスムーズに進む。
「これはもう慣れだと思う。棋士は頭の中に何通りもの手筋が、パズルのように浮かんでいる」
「将棋ですか」
「そう。作家の頭の中も言葉のピラミッドが建っていて、そこから適切な言葉を取り出して書く」
「難しそうですね」
不安な顔を浮かべる仲田に、激村は懇切丁寧に解説した。
「とにかく毎日書くことです。書いて書いて書きまくる。読んで読んで読みまくる」
「はい」
「自由自在に使える言葉を日々増やしていく。熟語や外来語、接続詞も含めて、言葉をたくさん知り、それを組み合わせていくのです」
「接続詞はたくさん覚えたいですね」
「接続詞は関節技みたいなもんだからな」火剣が起き上がってきた。
「大丈夫ですか火剣さん?」
「大丈夫なわけねえだろ。俺様は裸というものを表現するのに、こんなにたくさん言葉があるということを伝えたかっただけなのによォ。この遠大な計画も知らずに暴力で黙らせるとは、さすがは超獣ヒバゴン…」
「ダイナマイトキック!」
「NO!」

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