《MUMEI》
ギャグは貴重な武器になる
火剣がしつこく放つ。
「だれがザ・ファンクスや?」
「言ってません」
「テリー」火剣は両拳を上げると、仲田の肩を叩いた。「右、右、左!」
「さっきから滑りまくりですよ」
「わざとだわざと」
「火剣。ダジャレとギャグは違うぞ」
「激村。まだまだ甘いな。きょうからテメーを激村甘太郎と呼ぼう」
「返事はしないが」
バトルロイヤルの様相を呈してきた。
「ところで甘太郎」
「失礼ですよ」仲田が顔をしかめる。
「仲田。テメー、どっちの味方だ?」
「そういう問題ではなく」
「授業が進まない」激村が遮った。「とにかくギャグは思いきって飛ばしてみることだ。朝礼の挨拶。スピーチ。プレゼンテーションでも勇んでギャグを飛ばしてみる」
「プレゼンで滑ったら、ヘタしたら首だぞ」
「生活を賭けたギャグですね」
激村は続けた。
「日頃、そんなに滑ることもなく、結構受けるようになったら、ユーモアセンスが向上したという証しになる」
「ユーモアとふざけは違うぞ仲田」
「火剣さんにそっくりお返しをします」
「喧嘩売ってんのか?」火剣が睨む。「コーナーポスト最上段からのダイビングエルボードロップをお見舞いしようか?」
「よけます」
切り返しの応酬。激村も負けずに講義を続ける。
「日頃の会話やスピーチで受けるようになれば、小説でも受けるはずだ。日頃受けてるなら、そうハズすことはない」
「スピーチもそうだが、自信満々語ることが大事だ。プロの芸人だって思いきり滑ってるし、中には、なぜこのギャグが受けると思ったのか、不思議に思うネタもあるだろ」
「ありますね」仲田が同意する。
「マンガはギャグのお手本になるな」
火剣がまともな意見の連発。激村も乗ってきた。
「落語、漫才、コント、演劇、マンガ、映画。あらゆるものがギャグのお手本になる」
「アメリカ映画の爆笑力は凄まじいぜ」
「日本映画も負けていない」激村が言った。「面白い作品はたくさんある」
「笑える小説って、そんなにないですよね?」仲田が聞いた。
「だからこそ、そこが狙い目だ。電車やバスの中では読めないほど面白い小説を書けたら、それは凄い武器になる」
「武器武器って、さすがは暴力主義者は使う言葉も過激だな」
「関係ない話はするな」激村が睨む。
「武器武器音頭って歌を作詞作曲しろよ」
「火剣さん。セリフが意味になってませんよ」
「うるせえ」
「とにかく、技は多彩なほうがいい。技を持っていないレスラーは今いち勝ちきれない」
「ギャグの話は尽きねえな。次はメッセージについて語ろうぜ」
「あ、雨だ」仲田が窓の外を見て言った。

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