《MUMEI》
森@
.


リュウジが消えたのは半年前、わたしが大学生になって初めての夏休みで、とにかく暑い日だった。

いつものように自室でくつろいでいたわたしに、同じ部屋の片隅で小さく膝を抱えている彼が、ポツンとおもむろに呟いた。

「…これから一緒に出掛けようよ」

不健康そうな青白い顔だった。リュウジからそうやって誘われるのはとても珍しかった。簡単に支度をしていると、リュウジが見覚えのない黒いバッグを持ち上げた。中に何が入っているのか尋ねたが、彼は曖昧に首をかしげて答えなかったのでわたしもそれ以上言及しなかった。わたし達は家を出たあと、駅に向かった。

リュウジは運転しなかった。あることがキッカケで車を使うことを酷く嫌っていた。もちろんわたしはその理由を知っていたので、彼に対しとやかく言うことはなかった。


.

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫