《MUMEI》

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寒い冬の日だった。

その日、少女はひとりで家に帰る途中だった。時間も遅く、周りには誰もいなかった。歩き慣れた細い道をどんどん進んでいく。けれど、家に辿り着くことは出来なかった。

なぜなら、リュウジが運転する車に運悪くはねられてしまったから。

わたしも同乗していたからよく覚えている。闇の中からふっと少女の姿が横切り、次の瞬間、轢いていた。黒っぽい服を着ていたから少女の存在にギリギリまで気づけなかった。
まるで人形のように、少女の躰は宙に投げ出された。少女は地面に叩きつけられると、そのまま動かなくなった。

ことを察したリュウジはガタガタと震え始めた。涙を流しながら半狂乱で何かを喚き散らしていた。
わたしは車から降りて少女に近寄った。外はとても寒く、わたしはトレンチコートの襟を立てて冷たい風から頬を守った。少女は濃紺のセーラー服を着ていた。真っ白な顔で、目を固く伏せていた。あまり血は流れ出ていないようだった。打ち所が悪かったのかもしれない。


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