《MUMEI》

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咄嗟にわたしは母親に掴みかかった。包丁を持っている手に思い切り噛みついた。鉄の味が仄かに口の中へ広がった。
わたしの攻撃に母親はびっくりしたのか手を大きく振り払った。噛みついていたわたしと包丁は吹っ飛んだ。母親は血が流れている自分の手を見て困惑していた。
その隙にわたしは床に転がっていた包丁を握り、母親へ駆け寄った。嫌な手応えがあった。頭上から獣のような悲鳴があがった。手に生暖かい液体が流れてきた。わたしは何度も何度も包丁を母親の身体へ突き刺した。母親は何度も何度も悲鳴をあげ床の上をのたうちまわった後、わたし達を残して慌てて部屋から逃げ出した。間抜けな姿だった。

母親が出て行ったのを確認して、わたしはリュウジの方を見た。リュウジは悲しげな表情をしていた。わたしは、血塗れの包丁を捨てて彼に言った。


「…もう、大丈夫だよ」


以前にも言ったことがある台詞だった。

リュウジは泣いた。わんわん泣き続けた。助かったのに何故泣くのかわたしにはわからなかった。



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