《MUMEI》 . 「彼女には可哀想なことをした…」 遠い目をしてリュウジは小さくそう言った。わたしは頷いた。すると彼はわたしの顔を覗き込んだ。刑事が犯人に向けるような鋭い眼差しだった。 「…ぼく達は罪を償わなければならない」 リュウジの言った意味がわからなかった。彼は持っていた鞄を開き、中からロープを取り出した。その両端を握り、わたしに見えるように掲げた。ピンッと張ったロープは今、リュウジの手の中にある。 「…このままでは二人ともダメになってしまう…だから、わかってくれ」 その言葉でようやくわかった。リュウジはわたしを消すつもりなのだ。彼の為に人を殺したわたしを。 彼は続けた。 「…最初から間違っていた。お母さんのことも、この女の子のことも…ぼく達は罪を重ねすぎたんだ」 わたしはあなたを守っただけよ? そう言うとリュウジは首を横に振った。ロープを持つ手がブルブル震えている。 「…ぼくは、君にこんな恐ろしいことをさせる為に、一緒にいたわけじゃない」 わたしを殺す気? リュウジは答えなかった。ただ泣きそうな顔をしていた。 「もう、終わりにしよう…」 呟いたかと思うと、リュウジが目の前にゆっくり迫って来た。 ギィ…ギィ…と紐が軋む音が響いていた。 ****** 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |