《MUMEI》

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「『リュウジ』は一体何者なんでしょうね…?」

医者に尋ねることではないことはわかっていたが、刑事はつい呟いた。医者は神妙な顔をして少し黙った後、容疑者のカルテを取り出しおもむろに口を開いた。

「…解離性同一性障害という言葉をご存知ですか?」

聞き慣れない言葉に刑事はつい眉をひそめる。

「かい、り…何ですか、それは?」

しかめっ面をした刑事に向かって医者は言った。

「解離性同一性障害―――いわゆる多重人格ですよ」

思いがけないその言葉に、完全に虚を衝かれた。

「…多重人格、ですか?」

刑事が言葉を繰り返すと、医者は力強く頷き返した。

「…容疑者のカウンセリングを行った際、その可能性が濃厚になりました」

医者の話に刑事は首を傾げた。医者は続ける。

「…幼い頃に、母親による継続的な虐待があったようです。それが原因でしょう。永田 隆司は自己防衛の為、別の人格を生み出した…これは多重人格に良く見られるケースですね」

医者の言葉を聞きながら、刑事は納得がいかないようにひとつ唸った。デスクの上の報告書をペラペラめくってみる。その中に『永田・母、腹部から大腿部にかけて16カ所の刺し傷。全治8ヶ月の大怪我』という一文を見つけた。

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