《MUMEI》

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刑事は報告書から目を離し、やれやれ…とため息をつく。

「…つまり、永田の中に『別の人間』がいるということですか?」

医者はもう一度頷き、「そうだと思います」と答えた。

「あなた方警察の調書に、半年前に永田 隆司は山へ向かう電車に一人で乗っていたというのに、まるで誰かに話しかけているように何かを呟いていたと、居合わせた老人の証言がありました…この時彼は、彼の中にいる別の人格と会話をしていたのでしょう。永田 隆司が多重人格だとすれば容易に合点がいきます」

刑事は身を乗り出して、「なるほど…」と頷き、続けざま尋ねる。

「では、その別の人格が『リュウジ』なのですね?」

刑事の問いかけに、医者は今度は頷かなかった。堅い表情だった。


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