《MUMEI》
独創性溢れるメッセージ
激村が火剣の意見を尊重して、話題を変えた。
「小説のメインはメッセージと言ってもいい。自分の書きたいテーマ。伝えたいメッセージ。ポリシーを作品の中に入れることは大事だし、作家の楽しみでもある」
「メッセージやテーマのない書は浅い書だ。ポリシーのないミュージシャンはまずいない」
「火剣さん」仲田が驚く。「クリーンファイトをするタイガージェットシンみたいです」
「どういう意味だ?」
激村が続けた。
「無名のミュージシャンでも自分の音楽というものをしっかり持っている」
「得意の上から目線か?」
「戻るな火剣」
「うるせえ」
「…例えば自分の目指すべき音楽がジャズと決めたら、途中からロックに転向することはない。売れ線を狙うのではなく、生涯ジャズを愛し続ける。これはロックも演歌も同じだ」
「カラオケ行きたくなるな」
「そういうもんですかね?」
「料理番組見るとウマい料理食いたくなるのと同じだ」
「火剣さんの話なんかしてませんよ」仲田が顔をしかめた。「激村先生の話です」
「何だと?」
乱す火剣を無視して、激村は続けた。
「方向性はそのまま魂と直結しているので、売れ線は基準ではない。文学もそういう部分があっていいと思う」
「激村の方向性は2階からの手刀攻撃だな」
「手刀?」激村が火剣を睨む。
「常に上から目線」
「火剣さん。もうギャグの話は終わりましたよ」
「ギャグじゃねえ」
「じゃあ火剣さんのポリシーは何ですか?」仲田が積極果敢に絡む。
「よくぞ聞いた仲田」火剣が喜ぶ。「俺様のポリシーはヒロインを絶体絶命の窮地に追い込むことだ」
仲田は真顔になると、爽やかな笑顔を激村に向けた。
「授業を続けてください」
「小説の場合も、メッセージがコロコロ変わるのはおかしい。ミステリー、コメディ、サスペンス、SF。どんなにジャンルが変わろうと、メッセージの方向性だけは変わらないのが理想だ」
「SMが抜けてるぞ激村」
「ジャンルの話じゃありませんよ」仲田が口を尖らせる。
「何作書いてもメッセージの方向性が一貫している作家は信頼される。本来作品というものは、映画も小説も、『このテーマを世に問う』という凄く重いものだから、そう簡単なものではない」
「コーナーポスト最上段からの手刀」
「シッ!」仲田が睨む。
「電子書籍の出現により、もう素人だからは通用しない。放つメッセージにはプロとしての責任が伴う」
「ヒロイン危機一髪のシーンが描きにくくなるな」
「書かなきゃいいでしょう?」
「バッファロー! 仲田。自分に嘘をつくのはよせ」
「ついてません」

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