《MUMEI》

三人はあてもなく歩き続ける。
サイレンはまだ鳴り響いている。
どういう状況になっているのだろうか。
あの男は本当に死んだのだろうか。
ユウゴが考えながら歩いていると、突然織田が足を止めた。
「どうした?」
ユウゴも足を止め、織田の顔を見る。
彼はいつもの無表情でまっすぐ前方を見つめていた。
「なんだよ、どうしたんだ?」
後ろでケンイチが不思議そうに首を傾げた。
「誰かいる」
織田は低い声で言うと、少し眉を寄せる。
ユウゴは素早く辺りに視線を走らせた。
しかし、どこにも人の気配はない。
「べつに、誰もいな……」
言いかけたユウゴに織田は片手をあげ、人差し指を立てた。
静かにしろということらしい。
ユウゴが眉を寄せていると織田は静かに後ろに下がり、路上駐車してあった車の陰に身を潜めた。
よく状況がわからないが、とりあえずユウゴとケンイチもそれに従う。
「なんなんだよ?」
小声で言ったケンイチを視線で黙らせた織田は、そっと顔だけを車から出した。
ユウゴは、ほとんど寝そべるような体勢で車の向こうを覗いてみる。
すると、少し先の方から妙な音が聞こえてくるのがわかった。
サイレンの音に紛れてカラカラと金属とアスファルトが擦れるような音が聞こえるのだ。
織田にはこれが聞こえていたのかと納得し、さらに耳を澄ましてみる。
どこから聞こえるのか探っていると、少し先の十字路に一人の男が現れた。
手には金属バットを持っている。
しかし、それよりもユウゴが気になったのは男の着ている服だった。
「ダウンの男」
無意識に呟いてしまった自分の声にユウゴは慌てて頭を引っ込めた。

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