《MUMEI》 ディベートを描く火剣のおかげで大幅に時間がズレている。激村は先を急いだ。 「とにかく、読者が『作者はこういうことを伝えたいのではないか?』と考えてくれたら大成功だ」 火剣が絡む。 「ストレートの直球勝負をしちゃいけねえのか?」 「いけないとは言っていない」 「遠回りもまどろっこしいからよォ、ハッキリ言ってしまうのも手だぜ」 「はあ」 「仲田。何だそのやる気のない返事は?」火剣が右肘を曲げた。「アックスボンバーで目を覚ましてやろうか?」 「やめろ」激村が止めた。「押しつけは良くないからな。違う意見を闘わせる手法もある」 「教えてください」仲田が目を輝かせた。 「例えば火剣というキャラが暴力主義者だとしよう」 「はい」 「そして仲田君が非暴力主義者だとする」 「逆じゃねえか?」 「逆だったらギャグマンガですよ」 「何だと?」 激村は続けた。 「作品の中で全く異なる考えを持った二人が議論するシーンを描く。そうなれば両方の意見を語ることになる」 仲田は熱心にノートをとった。 「読者はどっちが正しいだろうかと考える。これで作者が答えをハッキリ言わなければ、公平だし押しつけにはならない」 「なるほど」 「ラストシーンまで答えを出さずに、あとは読者に委ねるという手法はよく使われる一手だ」 「逃げの一手だな」 「ゆだねるのと逃げるのは違いますよ」 「うるせえ」 「暴力と非暴力では答えは出ているが、脳死や死刑制度、少年犯罪の刑罰など、難しいテーマもある」 「はい」 「そういうときに口論や議論のシーンを描く。両方の意見を研究し、勉強して、小説の中でディベートを描くんだ」 「口論の末最後は自称世界一ラリアットだろ?」火剣は廊下を指差して叫んだ。「行っちゃうぞバカヤロー!」 「勝手に行け」激村が怒る。 「火剣さんは反則負けですね」 「バッファロー! 俺様は反則スレスレの線を知っているから反則負けにはならねえ」 「本当ですか?」仲田が疑いの目120%だ。 「よし、次のテーマは小説で反則負けにならない方法だ」 「なってますよ火剣さんの場合」 「うるせえ。反則はファイブカウントまで許される」 「それはプロレスだけだ」激村が言った。 「激村。いつからそんな感動のない人間になったんだ?」 火剣が授業をジャックする。 「よし、小説における反則について大いに語ろうではないか!」 「危ない話じゃないだろうな?」 「心配するな激村。俺様の究極のチラリズムマジックは、反則ギリギリの線を行くからな」 笑顔で威張る火剣。激村と仲田の表情が曇った。 前へ |次へ |
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