《MUMEI》 反則スレスレの線を知る火剣がいきなり仲田にチョークスリーパー! 「ゲッ…何してんですか、やめてください」 火剣が技を仕掛けながらレフェリー役もやった。 「チョーク、反則、ワン、ツウ、スリー、フォー」 火剣は技を放すと、すぐにまたチョークスリーパー。 「ブレイク、反則、ワン、ツウ、スリー、フォー…」 激村がすでに後ろにいて、火剣に襲いかかる。 「待て激村。こっから話が繋がるんだ」 「シャラップ!」 激村は火剣にフロントヘッドロックから高々と持ち上げて、ブレーンバスター! 「がっ……」 火剣をKOすると、激村は教壇に戻る。仲田は冷汗をかいていた。 「授業を再開する」 「はい」 「小説で反則といえば、まずは固有名詞を出しての誹謗中傷です」 「はい」仲田は真剣にノートをとる。 「小説を読む人は悪口を聞きたいわけではない。どさくさ紛れの批判は、例え批判する対象が本当に悪でも小説でやることではないと思う」 仲田は真顔で聞き入った。 「ブログやツイッター、論文などで語るのは自由でしょう。もちろん風刺するには責任と覚悟が必要です」 「覚悟?」 「批判された人間が噛みついて来るかもしれない」 「怖いですね」 「だから個人攻撃ではなく風潮を批判すればいい」 仲田は身を乗り出すように聞いた。 「風潮?」 「例えば許せない政治家がいたとする。しかし個人名は出さずに政治家のあるべき姿を厳しく問う。これは反則負けにはならない」 「なるほど」仲田が目を見開いた。 「小説は娯楽だから、風刺風刺で厳しく行くと重くなる危険性がある。モーツァルトの音楽のように、明るい気持ちになれる小説が望ましいと思う」 「はい!」 激村はさらに熱く語った。 「もちろんユゴーやトルストイが書く大文学は別だ。あのクラスは作家の枠を超えて指導者だから、メッセージも地球レベル、人類レベルだし、権力の魔性を粉砕する火を吐くような言論戦だ」 「凄い…」 「しかし新人作家がそれを真似したら、たちまち説得力に欠けると思う。焦ってはいけない。年齢もある。40代の作家が書くならまだしも、二十歳そこそこだと、それを語る背景がないと厳しい」 「いろいろと難しいですね」 「簡単だ」火剣が復活した。 「もう少し寝ていろ。授業が進む」 「うるせえ。テメーの話は固いんだよ。それよりエキサイティングなヒロインたちはいつ出てくるんだ、この詐欺ヤロー!」 「失礼ですよ」仲田が睨む。 「仲田。読者に対して失礼のほうが罪は重いぞ」 「……」 前へ |次へ |
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