《MUMEI》
嘘から出た恋愛1
 私は今、恋をしている。意中の相手は同級生のBくんだ。彼はクラスでいつも一人でいる。一匹狼というわけではない。率直にいって嫌われているのだ。いじめまがいの扱いを受けているといっても過言ではない。反対に、自分で言うのもなんだが、私はクラス内でそこそこ人望を勝ち得ている。彼とは接点がまるでなかった。
 そんな彼に、私が心を奪われたきっかけはとても些細なことだった。
 テスト前のその日、私は図書館で遅くまで勉強をしていた。テスト前はいつもこうしているのだが、閉校時間になりいざ帰ろうとした時、私以外にも図書館に残っている人がいることに気付いた。Bくんだ。
 私は別段彼が好きではなかったが、クラスのみんなのように邪険にするのも気が引けた。お互い顔を突き合わせた状況で、見知った顔を無視するわけにもいかないので、私は彼に声をかけた。どこかぎこちない会話だったが、話てみると彼が良い人間だと分かった。コーヒーをおごってもくれた。
 その日から彼のことが気になり始めた。恋とは本当にちょっとした出来事で始まるのだ。
 ただ、恋とは難儀なものである。彼がいじめられていると、頭が沸騰するし、ごく稀に彼と親しげに話ている人がいれば、それ以上の憎悪が生まれた。
 彼に他の人間など必要ないのだ。私の中にそんな感情が芽生えた。理性ではこれが間違った考えだと理解出来るが、否定仕切れない。
 嫉妬とジレンマにもやもやした日々を過ごしていたある日のことである。見慣れぬアドレスからURLが書き込まれたメールが送信されてきた。
 イタズラメールか。私は削除をしようかと思ったが、文面に視線を奪われた。
 意中の彼を確実に落とす薬、あります。
 言葉を見た私はすぐさまサイトに飛んだ。
 飛んだ先は、背景が黒い、いかにも胡散臭いサイトだった。
 私はそれでも薬の概要を見てしまう。
 服用した人間は効果持続中に長く見ていた相手に惚れてしまう、病的に。
 馬鹿馬鹿しいと思いつつも、説明を読んでいる内に不思議と私はその薬に心惹かれた。そしてついに、ダメ元で購入してしまったのだ。
 三日後、薬は届いた。小瓶に錠剤がびっしりと詰まっている。どうやら一錠で効果はあるらしい。
 私は早速試すことにした。使用する相手は身近で観察出来て、なおかつ気心がしれている人間が良い。
 私は標的を決め、すぐさま実行に移す。薬をコップに仕込み、それをテレビを見ていた母に渡した。母が礼を言いながら受け取ると、私はすぐさま部屋を後にした。
 変化を実感するには、それから数日とかからなかった。今まで大して好きでもなかった芸能人に、母が入れ込むようになったのだ。その芸能人はもちろん、当日母が見ていたテレビに出演していた。逆に今まで円満だった父との夫婦関係は日に日に悪化していった。
 この薬は本物だと私は確信した。
 次の日、私は学校に薬を持っていった。もちろん彼に使うためだ。
 チャンスは意外と早くやってきた。二限目終了後の休み時間、彼が飲み差しのペットボトルを置いて席を立ったのだ。私は急いで彼の席に近づき、ペットボトルの中に三錠の薬を入れた。彼がペットボトルを飲み干す姿は見れなかったが、その日は出来るだけ彼に話かけた。彼を嫌っている友人のCくんやDさんは良い顔をしなかったが、気にしない。
 その日の放課後、私は彼に思いを吐露した。成功することが分かっていても、告白の瞬間私の心臓は張り裂けんばかりに鼓動を打つ。
 彼は微笑み、言う。
「喜んで」
 そして成功を確信していたにも関わらず、私は喜びを押さえきれないのであった。

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