《MUMEI》
反則ギリギリの線を知る
「激村」火剣が絡む。「メッセージを入れろって言ったり入れるなって言ったり。授業に矛盾はねえか?」
「入れるなとは言ってない。ユゴーの言論戦と同じことはできないと思うのが普通だし、まずは焦らず足下を固めて面白さを追求し、固定読者を増やすことだ」
「固定読者?」仲田が興味津々の顔だ。
「一時の風に乗る人間は火のように燃え上がるときは凄いが、すぐに消えてしまう。目指すべきは水のごとくいつも淀みなく退せず流れ続けること。それには読者一人ひとりと深い絆を結ぶことです」
「絆かあ」
仲田の感動には構わず、火剣が割って入る。
「激村。何次のテーマに移ってるんだ? 一つ一つ片づけろよ。まだ反則の話が終わってねえぞ」
「いいですよ反則の話はもう」
「バッファロー! 小説に野球のようなルールブックはねんだ。ルールを学ばないでリングに上がる気か?」
正論で仲田を強引に抑えると、火剣は激村を睨んだ。
「反則ギリギリの線を教えろよ、先生」
「不良かっ!」
「うるせえ」
激村は答えた。
「小説は小中学生も読むから、基本的に官能的な話はまずい」
「お、この講座のメインテーマにやっとたどり着いたな」火剣が満面笑顔だ。
「別にメインテーマではないが」
「黙れ。ほかに何があるって言うんだ。テメーら作家のはしくれならもっとサービス精神を磨け。俺様を見習って。ガハハハハ!」
暴走する火剣。
「で、大将。どこまでなら許されるかが問題なんだな?」
「そうだ」激村の額に汗が光る。
「プロはヤバイ話を書いても反則ギリギリで止める寸止めテクを知ってるからな」
「寸止めテク?」仲田がまじめに聞いた。
「テメー寸止めテクも知らねえのか? ヒロイン危機一髪のシーンで、これ以上攻められたら屈服してしまうギリギリのところで止める裏技よォ」
「言葉が危なくなって来たぞ」激村が睨む。
「こんなの序二段だ」火剣は水を得た鯱だ。「あと仲田。もう一つの意味に使われる寸止めは、ヒロインがあわや犯される寸前まで行って助かるパターンだな」
「はあ…」
「はあ、じゃねえ、はあじゃ」
「火剣。反則したら教室から叩き出すぞ」
「激村。こんな大事な話をしないなんて怠慢だ。タイマン張るか?」
「滑ってますよ」
「受けたさ」
火剣が止まらない。
「実際この線は難しいんだ。同じサイトでも厳しさが違うからな。表現の自由を重視するサイトもあればすぐにイエローカードを出すサイトもある」
「ほとんど何でもアリのサイトもあるぞ」
「教えろよ激村。そこで書く」
「貴様には教えられない」
「同感」仲田が呟いた。

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