《MUMEI》
或る詩(an song)
すべては、幻だった。鐘と愛の象徴とともに、すべては、消え失せた。

走馬灯のように駆け巡った砂時計のうつろな姿は、交差点における魂の消滅を約束した。

一人は、東へ、一人は、西へ、一人は、世界へ、一人は、玉座へ、一人は、旅へ、一人は、酒場へ、世の楽しみを、限りなく、誓った。

すべては、消え失せ、すべては、返り、すべては、咲き、すべては、散った。

かたどったタンポポの花びらが、街中に振る舞われる頃、この先、光と闇とその中立なるものに、躊躇いを誘い出した。

『あの光の先には、何があるの?』ある少年は、聞いた。

『あの闇の向こうには、争いが絶えないの?』ある少年は、尋ねた。

『あの交差点には、何が、いつ、誰に、災いを引き起こすの?』ある少年は、泣いた。

『世界は、統べるためにある。僕は忠誠を誓うよ。』ある少年は、喜んだ。

『玉座に就くんだね。最初からそう思ってた。』ある少年が、笑った。

『旅に出るの?今から、用意しなきゃ。でも、大変だね。』ある少年は、迷った。

『酒場は、大変じゃない?手伝おうか?』ある少年は、心配した。

すべては、すべてのために、すべての宝を、皆に解放した。宝は、金貨で振る舞われ、皆は、笑った。

ハンセブルグの街宿に灯がともる。『お客さん、旅行ですか?』と。答えは、なかった。

街宿では、旅行の人々は、虚ろいにすぎ、虚ろいに消え、虚ろいに泣いた。

すべからく、少年と、ひとりの旅人は、姿を消した。すべては、終わった。

怒った酒場、天と地とを破壊し、人々をすべての中に、封じ込めた。

すべては、終わり、世界は、一つになった。

残った、酒場は、消えた旅人の死を悼んだ。やがて、旅人は、旅人を呼び、旅人を生んだ。旅人で一杯になった世界は、玉座と光と闇を従え、交差点を呼んだ。
旅人は、還ってきた。

安堵した酒場は、旅人に酒を贈り、すべての人々に感謝した。

すべての人々は、世界に住み、玉座を認め、酒場と旅人と交差点を労った。光と闇は、祭られ、やがて、世界は、世界を生み、旅人は、名のなき詩をつくった。
すべては、名のなき詩を口ずさみ、すべてのために、すべてを、すべてにより、感謝した。

すべては、平和になり、すべては、記憶を語り継いだ。

ある旅人は、いう。『すべては、終わった。』

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