《MUMEI》 暴力描写は反則か?火剣がまくる。 「俺様はいつでも刺激を訪ねて三千里だ。果汁100%のフレッシュジュースが飲みたいかヘルシー野郎。健康的なのはいいが人生それだけじゃねえ。野菜ジュースみたいな作品ばかりじゃ強い酒飲みたい大人は風邪ひくぜ!」 「何テンパってるんですか?」仲田が真顔で口を挟む。 「バッファロー! 正論でキレイにまとめられるほど世の中は甘かねえ。小説は時代の反映って側面もあんだろ? てことはよォ、小説もきれいにまとめるよりもロバートデニーロのタクシードライバーみたいに見終わったあと、『見てはいけないものを見てしまったか?』という感情になるのも芸術作品ではなかろうか?」 「なかろうかって…」 「何か文句あるか仲田?」 「よくわかる」激村が同意した。「失望して落ち込んでいるとき、心の渇いた主人公が暴力的に振る舞うハードボイルド小説が、意外に癒しになることもある」 「荒治療に似てますね」仲田が呟く。 「それも文学の不思議な力だ。火剣が言いたいこともよくわかる」 「DARO!」 「パクリはやめなさい」 「暴力も行き過ぎは反則ですよね?」仲田が聞いた。 「拷問シーンも、あまりに官能的過ぎたり、拷問が残忍過ぎるのは反則負けになる。かといって緩い拷問ではリアリティーに欠ける。一つには言葉攻めがある。言葉だけでスリリングに描くこともできる」 「言葉責めは俺様に任せろ」火剣が笑顔で威張る。 「任せられるか。とにかく意識して線を超えないのがプロだ」 「プロレスがヒントになるな」火剣が言った。 「プロレス?」 「仲田。本来プロレスで関節技は反則じゃない。でも1秒と耐えられない関節技を使わないのが暗黙の了解だ」 「はあ…」 激村が続いた。 「四つん這いの相手に顔面キックもめったにやらない。ひとたび一線を超えたら相手も超えて危険なセメント(ガチンコ)になるから、線を超えないようにする」 「文学の世界でもその感覚は生きる」火剣が乗る。「暴力もこれ以上過激だとヤバイだろうっていうギリギリの線を知っているのがプロだ」 「プロは一線を超えない。小説が娯楽だということを知っている」 「プロレスもビジネスでありショーだ。ショーと八百長は違う。ショーは魅せるという意味で、例えば激村と仲田がまじめに小説講座の個人授業を開いても面白くとも何ともねえ!」 雲行きが怪しくなってきた。 「せっかく貴様の意見を尊重したのに悪口で返すか?」 「うるせえ」 「ひどいですね火剣さんは」 「黙れ。俺様が登場してわざとヒールを買って出てショーアップするから『魅せるストロングスタイル』をファンに提供できるんだ。小説のバイオレンスシーンも同じだ。魅せることを意識すればおのずと残酷性は薄くなる」 「よく口が回るな」 「DARO!」 前へ |次へ |
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