《MUMEI》

 「最近、中変わったよね」
翌日、学校
全ての授業を何となくこなし、漸くの放課後
早々に帰宅の途に着こうとした丁度その時だった
思わぬその言葉に、佐藤はつい向いて直る
「……私、変わった?」
「うん。なんて言うのかな。何か、柔らかくなったって言うか……」
友人からのその指摘に、少なからず心当たりがある佐藤
僅かに笑みを浮かべて見せながら、だが、何でもないを返す
「気の所為だよ、気の所為」
「そんな事無い!さては中、恋しちゃってるな?」
「こ、恋!?」
聞きなれないその言葉を向けられ
瞬間、佐藤の顔が真っ赤なソレへと変わった
「うそ……。中、もしかして、本当に……?」
「ち、違っ……!」
慌てて否定してみるが
ソレが却って肯定だと捕らえられてしまった様で
友人からは驚いた様な、それを楽しんでいるかの様な
どちらとも取れない声を返してくれる
「そうなんだ〜。で?中、相手誰なの?この学校の人?」
「だ、だから違うってば!」
中途半端な返答は更に誤解を生み
話しを先へ先へと進めていこうとする友人へ
佐藤は慌ててそれを否定してみせる
だが弁解すればする程に、友人は一人納得したように頷くばかりだ
「……じゃ、私用事あるから、先帰る」
「あ、中!」
これ以上は自分の分が悪くなるばかりだと
逃げる様に踵を返し、その場を後に
自分自身の感情がうまくコントロールできず
恥ずかしさの余り表通りを全力疾走する佐藤
途中、勢い余り正面から歩いてきていた人影とぶつかってしまう
「ご、ごめんなさい!」
弾みで尻もちを着きながら、それでも謝る事をして見せれば
「中、大丈夫?怪我とか、してない?」
「え?」
聞き知った声に顔を上げてみれば、そこに藤本の姿
何処かに配達でも行くのか、その腕には花束が抱えられていた
「……もしかして、配達?」
藤本の手を借り、立ち上がりながら問うてくる佐藤へ
藤本は僅かに笑んで見せると、そのまま佐藤の手を引いていた
「丁度いいから、一緒に行こうか。中」
「行くって何所に?」
「知り合いがやってる喫茶店。花飾ってくれって頼まれてて」
「お仕事?私なんかが付いて行ってもいいの?」
邪魔になったりはしないのか、と表情を曇らせてしまえば
勿論、と藤本から更に笑みを向けられた
「あいつに、ウチにもこんな可愛いバイトさんが入ったんだって、見せびらかしてやりたくて」
「な、何言って……!」
奥目ない藤本の言葉
異性から余り戴いた事のないソレに、佐藤は顔中赤面
まともに正面を向けなくなってしまう
そのままの状態でどれだけ歩いたのか
どうやら目的地に到着したらしく、藤本の脚が止まった
行き成りに立ち止まられ
停まる事が間に合わなかった佐藤は勢い余り、藤本の背に顔をぶつけてしまう
「着いたよ、中」
closeの札が下げられている戸を向遠慮に開け放ち藤本は中へ
入って見れば、金髪・蒼眼の可愛らしい少女に出くわした
「ど−も、お花屋さんです。高見の奴いる?」
店の片付けにと忙しく動くその少女へと尋ねてみれば
少女は頷き、作業の手を止めると目的の人物を呼びに踵を返す
その直後
「今回は随分と早かったな。藤本」
男が一人現れた
挨拶も程々に、その男は藤本へ仕事の話をし始める
その間、なにをしていればいいのか分からず、自分自身を持て余す佐藤
ソレを見兼ねてか、少女が不意に佐藤の肩を叩いた
「お話、もう少し長くなると思うから。こっちで、お茶でも」
そのまま手を引かれ、座らされてしまえば
その佐藤の前へ、ティーカップが置かれる
「オサムさんのお茶、とっても美味しいんです。どうぞ」
「あ、ありがと……」
勧められるがままに茶をすすり始める佐藤
作業に忙しなく藤本を何気なく眺めていると
その傍らの、依頼主である高見オサムと眼が合った
「……カルラ、冷蔵庫の中にまだケーキあったろ。嬢ちゃんに出してやれ」
徐な高見のそれに
カルラと呼ばれる少女は頷いて返し、そのケーキを佐藤の前へ
どうぞ、とまた勧められ一口
程良く酸味のきいたレアチーズケーキ
佐藤好みのさっぱりとした味だった
「俺も腹減ったんだけど。高見、俺には?」

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫