《MUMEI》
プロローグ かぐや姫
 鮮やかな緑。
 
 青く澄みきった空。

 夏の香り。夏のいろ。


いつもの待ち合わせのビルの屋上。屋上へとつづく階段を上るたび、きもちが高まっていく。
ポニーテールに結んだサラサラの髪でにっこりと笑った姿を想像してドアノブに手をかけた。
キィ…
きづいてきみが、ゆっくり振り返る。

おどろいた。

絶対着ないと言っていたワンピースを着て、髪もおろしていて…
「リセ…」
おちついた、爽やかな声で」、俺をよんだ。
「別れよ。リセはあたしのこと、ぜんぜん知らない。」
「え……」
きみは目になみだをうかべて…
「もっと、知って…ほしかった…な…」

「バイバイ。」

にっこりと最後に満面の笑顔をうかべ……長い髪を、ワンピースをフワリとひろげた…。


伏せていた目をあけると、あの日とおなじような青い空が広がっていた。
あの日と同じだ…と思っても、静かに笑えるのは、あの人のおかげだと思う…。

春のお日様のようで、雪のようなあの人。
あたたかくて、おせっかいで…すぐにふくれて…「私つよいんだからっ…」って泣きじゃくりながら笑って…

そのやさしさで、あたたかい笑顔で、繊細さで、うそつきのつよさで俺の心の雪を少しずつとかしていった。

“きみ”も“あの人”も、もうこの世界にはいない。

もういちど、そっと、目をふせてあの人との運命を知った、言葉を思い出した。

「……かぐや姫を、知っている……?」



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