《MUMEI》
コミカルとバイオレンス
「動画見てたらよォ、興奮のシーンがあったぜ」火剣の目が燃えている。「将軍の娘らしいがこのヒロインも兵士でよォ、敵に背後から頭殴られて、複数の敵の暴兵みたいのがあっという間にヒロインを裸にして手足を拘束して…」
「ストップ」激村が止めた。
「だれがストップ太郎や？」
「ジャッキー作品について語るんじゃなかったのか？」
「そうだった」
「わざとらしいんですよ火剣さんは」仲田が泣き顔だ。「そうやって話が前に進まないんじゃないですかあ」
「泣くな」
激村が語る。
「ブルースリーは真剣勝負のシーンで一世を風靡した」
「そいやそいやそいや！」
「…リーのサイドキックで怪我した俳優もいる」
「アチョー！」
「しかしジャッキーは格闘技だけではなく小道具を使ったコミカルなシーンを取り入れた」
火剣が口を挟んだ。
「プロジェクトＡの自転車は凄かったぜ。ハシゴやイス。机。身近にあるものを使うあたり天才的な演出家だな」
火剣が珍しくまともな意見を語るので、激村と仲田は無言で聞いた。
「悪役が強敵というのは物語全体を締めるんだ。本物の闘技者であるベニーユキーデが登場したときは興奮したぜ」
仲田が質問する。
「映画は本物を使えばいいですが、小説の場合どうするんですか？」
「いい質問だ仲田」火剣が自信満々に答える。「紅伊雪井出という役名にすればいい」
「質問の答えになってません」
「だれがグリとグラや？」
「言ってません」
激村が仲田の質問に答えた。
「小説の場合は伏線を張るしかないな。その男がどれだけ強いかをどこかで見せる必要がある」
「面倒くせえな」
「なら小説を書かなければいい」
「そういう冷たいこと言うとグルンパの歌を最初から最後まで歌うぞ」
「やめろ」
「はたらっきもんのグルンパ！ 大足大耳…」
ドロップキック！
「だあああ！」
慣れっこになった仲田は首をゆっくり左右に振った。
「授業を続ける。ジャッキーはユーモアセンスも抜群で、特にハンキンポーの役は爆笑を誘った」
「そうですね」仲田が同意の笑み。
「ジャッキー監督も言ってるが、クンフーを基調としたコミカルな格闘シーンにすることにより、暴力性を少なくできると」
「深い考えがあったんですね」
「私の作品でプロレス技が炸裂するのも同じ考えだ」
「私じゃねえ私じゃ！」火剣が復活。「何度も蹴られる身にもなってみろ」
「いいですよもう、火剣さんの横道にそれる話は」
「バッファロー！ 多くの人間が俺様のヤバイ話を待っている」
「待ってません。待ってません」
「うるせえ。で将軍の娘の続きだが、手足を大の字に縛られて無抵抗の状態で敵の男が体固め…待て激村、NO!」
バックドロップ！

前へ |次へ
作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する
携帯小説の
無銘文庫