《MUMEI》

手際よく作業に動きながら、高見へと強請ってみれば
高見はあからさまに怪訝な顔を浮かべて見せながら
「あるか!テメェはさっさと仕事しろ!」
「あ、それって酷い!中〜」
子供の様に拗ね、すっかり作業の手を止めてしまった藤本
そんな藤本の様を見るに見兼ねた佐藤
ケーキを持ったまま立ち上がり
「……半分、あげるから」
皿とフォークを差し出してやる
だが藤本はソレを取り事はせず、登っていた脚立の上で膝を折ると
「食べさせて。中」
口を開けてきた
行き成りなソレに呆然としていると手首を取られ
藤本は態々、佐藤が握ったままのフォークでケーキを食べた
「……自分で、食べたら?」
途中、漸く恥ずかしくなったのか
藤本の口へとケーキを押し込むとフォークから手を離し、顔を背ける
今更に照れ、顔中真っ赤になっていた
「中、もしかして照れちゃってる?」
「そ、そんな事……!」
「ない?本当?」
「〜〜愛美!」
揶揄う様な、だが柔らかな笑みを向けられ
文句を言ってやろうとしたその言葉を佐藤は飲み込む
結局何も言えなくなってしまい、恥ずかしさに俯いてしまった
「……藤本、あんま揶揄ってやるなよ。嬢ちゃん顔真っ赤じゃねぇか」
見るに見兼ねたらしい高見が割って入り
早々に仕事を済ます様、藤本の後頭部を叩きせっついてくる
急かされ、漸く藤本は仕事を再開する
手際よく花を飾っていくその手元を佐藤は間横でまじまじと眺め見
「……きれい」
彩りよく飾られたソレを見、つい呟けば
ソレに気をよくしたのか、藤本が口元に笑みを浮かべて見せた
「中も、やってみる?」
「え?」
「これ、この籠。壁に飾ろうと思ってるんだけど、やってくれる?」
思いもよらない藤本からの申し出
佐藤は戸惑いながらもそれを受け取り
楽しげな表情を僅かに浮かべ、花と戯れ始めた
「こ、こんな感じ?」
自身の歓声が赴くままに飾り、それを藤本へ
見せてみれば満面の笑みでOKサインがかえされた
「バッチリ。中、上手」
「そ、そんな事……」
褒めてくれることが、嬉しかった
だがそれを素直に表に出す事はまだ難しく
照れ隠しについそっぽを向いてしまう
「じゃ、これで完成。完璧!」
佐藤が造ったソレを壁へと飾り付け、藤本が作業終了を告げる
その出来栄えに満足なのか
満面の笑みを浮かべてみせた
「高見、出来た。これ、請求書」
出来たディスプレイを写真に収めながら
ポケットに入れていたらしいそれを高見へと渡してやる
「あ?ああ。ソコ置いといてくれ」
明日には振り込むから、との高見へ
「頼むな。じゃ、俺らは帰るから」
「御苦労さん」
手をヒラリ振り、藤本達はその場を後に
佐藤は高見達へと深々頭を下げ、藤本の後を追う
通りを歩いて帰りながら暫く後
「中、手伝ってくれてありがと。疲れた?」
僅かばかり振り返りながら問うてくる藤本
佐藤はゆるく首を横へと振りながら
「……平気。楽し、かったし」
消え入りそうな程の小声で返していた
久しぶりの、楽しいという感覚
ソレを誰かに伝えるのが何となく気恥ずかしかったらしく
だがそれを藤本は理解してくれたらしい
「なら、良かった」
短くそれだけを返すと、佐藤の頭に手を置いた
まるで子供扱いだが
ソレが藤本からだと思えば嫌ではなくなるから不思議なものだ
「そう言えば、中」
「ん?何?」
突然に顔を覗き込んできた藤本へ
若干後退り気味な返事を返せば
「さっき、俺の名前呼んでくれたよね。嬉しかった」
耳元で、低く呟かれる
言われて初めてその事に気付いたのか
佐藤は一瞬にして顔を赤く変える
「わ……」
「わ?」
「私、今日はこれで帰る!」
は透かしさも最高潮に達し、小走りに藤本の前へ
そのまま走って行きそうな佐藤を、藤本が腕を取り引き留める
「もう暗いし、オジさんが送ってあげるから」
「でも……」
「何かあってからじゃ遅いでしょ。いいから、こういう時は年寄りの言う事聞きなさい」
わかった?と念を押され
藤本は佐藤の手を取ると、バイクを取りに店へ
言いつの間に拵えたのか
佐藤用だと思われる可愛らしいヘルメットを投げて渡してくる

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫