《MUMEI》

瞬間、田中の身体が宙に浮いた。





「がはっ!」

ガタンガタッ



善彦もまた、田中に気を取られた隙に引っ張られ、近くの机を巻き込んで倒れこむ。


「いってぇ…」

「な、なんだよ、なんだこれっ!?」

痛みを堪えて顔を上げた善彦に田中がヒステリックな声を出しているのが見えた。


「た、田中っ!おい!止めろ!そいつは関係無いんだ!放せ!放してくれ!」


どこにいるかも分からない、見えない相手に向かって、善彦は懇願するように叫ぶ。





オマエハ スレシル ダナ?





「そうだよ!くそっ、姿を現せ!俺ならいくらでも相手になるから!田中は放してくれ!頼むよ!」


未だに弛むことのない拘束への抵抗を止め、善彦はすがるように頭を下げる。


こんな状態にも関わらず、善彦は常日頃感じている田中への引け目を思い出していた。





宙に浮いたまま、怯えを通り越したのか真っ青な顔で善彦の顔を呆然と見てくる田中に目をやり、せめてこの場だけでも無事に乗り切れば、今までの嘘と勝手な疎外を許してくれるのではないかと、相手が諦めるように深く祈りを込める。




「よし…ひこ…助けっ…」





我ガ ノゾミヲ 叶エル カ





「望み?」

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