《MUMEI》
今夜は…
―キィィ…―


耳障りな音が聞こえたのは、リョウの【頼み事】を承諾した直後。

有馬たちが戻ってきた。


「やぁ、リョウ君。調子はいかがかね?」

「別に…。」

苛つく位の明るい声で言う有馬に対して、リョウは素っ気ない態度を取る。


「随分な態度だねぇ。まぁいいが…。そんな事よりリョウくん!君に朗報だ!!」

「朗報?」

「もしかしてリョウを元に戻してくれるの!?」


朗報と聞き、加奈子は心踊った。

改心してくれたのかも…


自分達の思考が間違っていた事に気付いてくれたのかも知れない…


しかし、聞こえてきたのは有馬率いる三人の高笑い。
「あっはっは!馬鹿だねぇ加奈子!」

「相変わらず単純だな、お前!ハハッ!マジ笑える!!」

「まぁまぁ、二人共。そんなに笑っちゃ加奈子さんに失礼ですよ…。」


有馬は後ろに居る二人を静止させ、ツカツカと加奈子に近付いてきた。


「いやはや…加奈子さん。君はイマイチ物事を飲み込むのが遅いみたいですね。」

また後ろの二人がクスクスと笑い出す。

加奈子は馬鹿にされた様な気がして、怒りと恥ずかしさで顔を赤くした。


「朗報と云うのはね、こういう事だよ。」


有馬はそういいながら、天井を指差した。

加奈子もリョウも、その指の先を見上げる。


すると、さっきまでただの黒いだけの天井とばかり思っていた場所が、一面硝子張りの天井に早変わりしたのだ。


「まぁ、所謂マジックミラーってやつですよ。空が綺麗でしょう?」



見上げたそこは有馬の言う通り、真っ赤に染まった夕暮れ時の空。


確かに綺麗だった。



「後三時間です。」



「え?」





「今夜は綺麗な満月だそうですよ…」


有馬も眩しそうに空を見上げながら、穏やかな口調でそう言った。

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