《MUMEI》

聞いた事に対する、解らない答え
訳が益々解らなくなり、広川が嫌々と首を横へと振り始めれば
「……奴も、何れこうなる」
そう遠くはない未来に、そう喉の奥で笑う柊
ソレが槐を示唆した言葉だとすぐに理解し、広川は瞬間に眼を見開いていた
「……奴は、人喰いだ。今はまだヒトとしての理性があるが何れそれも失せお前を喰らう」
「喰、う……?俺、を?」
「そうだ。奴を狩るため、そしてお前を護るために儂が此処に居る」
僅かに笑みを含んだ様な声
嘲るようなそれで語られた話は、広川にとっては意外過ぎるモノだった
守るために
もし柊がその為にいるのならば今、この時助けて欲しい、と
広川は柊へと求めるかの様に手を伸ばした
「……いつ聞いてもあなたの言葉は不愉快ですね」
互いの手が触れる寸前
広川の背後から聞こえてきた声
「鬼姫!」
振り返ろうと踵を返そうとした広川へ、柊の怒号
その声に、広川は一瞬立ち止まる
柊の方へと戻ろうとした、次の瞬間
「……言った、筈です。柊に捕まることは許さない、と」
ソレを背後から伸びてきた手が遮った
その手が広川の首へと掛けられ、指が徐々に喰い込んでいく
「エン、ジュ……?」
「鬼ごっこは、止めにしましょう。瑞希、帰りましょうか」
締め付けが段々と強くなり、呼吸が遮られた
何とか逃れようと嫌々をする広川の唇を槐のそれが塞ぎ、更に息苦しさが増して
そのまま意識を失ってしまう
「随分とその鬼姫にご執心だな。人喰い」
広川を横抱きに踵を返した槐へ
柊はくびだけを僅か振り向かせ、嘲笑を浮かべて見せる
槐はその口元に僅かな笑みを浮かべて見せながら
「当然、でしょう。この区部は、特別なんですから」
「特別だと?」
ソレは一体どういう事なのか
柊は怪訝な表情を浮かべて見せる
だが槐はそれ以上何を語る事もせず、無言でその場を後にしたのだった……

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