《MUMEI》 「テレビつけてもいいよ」 「んじゃつけようかな」 相澤はガラステーブルの上にあったリモコンを手にとって電源を入れる。 「あ、お笑いスペシャルだ」 クスクス笑う彼女に紅茶の入ったマグカップを手渡す。 「ありがとう」 僕を見て笑う彼女。 狂気が僕をぐらつかせる。 しかし、彼女は気付かない 時計の針は午後7:30 「で、どうしたの?バイトの事で相談って言ってたけど」 「わざわざ家まで来てもらって相談ってなんか厚かましいよな俺」 「そ、そんなことないって!全然いいよ!」 ピピッと鳴らしながら俺はテレビの音量を上げる 「バイト仲間に聞いたんだけど、川部先輩と付き合ってるってほんと??」 「!!……………そうだけど…………どうしてそんなこと聞くの?」 疑問に思うのは当たり前だろう…………。 だけど俺にとってはとてもとても関係がある 「………………どうして?おかしいこときくんだね相澤さんは」 「へ?」 ニコリと笑って見せればぎこちなく笑い返す。 「新くん…………今日、なんだかおかしいね」 「いつも通りだよ志穂」 「!!?」 「いつも通りちゃんと挨拶してちゃんとゴミを分別してちゃんと働いてちゃんと計画立てて君をここに連れてきた」 またニコリと笑ってみるが、今度は笑い返してくれない。 あァ……………だんだん見えてきたんだな ``――――俺に'' 「か、帰るね」 飲み差しのマグカップを置き、目を合わせないままその場を去ろうとする彼女の細い腕を握る。 すると彼女から小さく悲鳴染みた声が上がる。 「なァ、どうして俺がこの時間帯に呼んだかわかるか?」 時計の針は午後7:35 「………わ、………わかんな」 「この時間帯って皆自分の事ばっか考えてんだよ。晩飯食ってるヤツ、テレビ見てるヤツ、働いてるヤツ、遊んでるヤツ」 「……………………」 「何で俺がこの時間帯を選んだか、何で俺が男のくせに鍵を二重かけたか、何でテレビのボリュームを上げたか……………」 愉しそうに説明する男の笑顔と雰囲気でなんとなく自分のおかれている状況が危険か分かってきた。 ………………冷や汗が伝う 前へ |次へ |
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