《MUMEI》

「あはは…。後ろは断崖絶壁で、四面楚歌か…」

泣きたいなぁ、と零す彼の顔は、とてもにこやかだった。
背には地面が遠く見える崖、正面には武装した、殺気立った屈強な兵士達がいる。絶体絶命というより他ない。

それを率いているであろう、一際目立つ鎧を纏った騎士が一人出てきた。

「貴様の運も、ここまでのようだな」

透き通るような高い声。きっと中身は女性だろう。

「…そうみたいだな」

彼は大きく溜め息を吐いた。

「何にせよ、誰かに殺されるのはイヤなんだ」

後ろ向きに一歩ずつ、確実に崖に近付いていく。
踵が縁を踏んだ所で彼は止まる。

それから隊長格の騎士に向かって、笑った。

「願わくば、今生の別れに成らんことを」

そして自ら、飛び降りた。

「ここから飛び降りても、まだ生きようと言うか…」

騎士はそう、呟いた。

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