《MUMEI》

 その日は嫌味な程、爽やかに晴れていた
佐藤の葬儀が自宅にて行われるとの報せを受けたのが翌日の早朝
ソレに際して、藤本に花を飾ってほしいのだとの母親からの申し出
自分なんかが、と思わなくもなかったのだが
母親からの熱心なそれに、自分でよければと承諾し、大量の花を抱え佐藤宅へと向かった
通された和室
其処に佐藤は眠る様に横たわっていて
茶を持ってくると母親が部屋を辞したのを会釈で見送る
二人きり、静けさしかない室内
藤本は持参してきた花を数本、徐に取って花冠を拵えていた
「……やっぱり、良く似合ってる」
あの時のソレとは花の種類が違うけれど、と
藤本は漸く口元に笑みを浮かべる
だがそれは荒にも脆く、すぐに消え失せた
「……オジさんはさ、中の事、助けてあげられてた?」
答えなど返ってはこない、一方的な問い掛け
その声を聞くかの様に唇へと耳を近づけてみるが、やはり呼吸すらなく
ソレがひどく、寂しかった
「……まだ、全然話し足りないんだよ。オジさんはさ」
苦い笑みを浮かべながら、藤本は佐藤の唇へと自身のソレを重ねる
そのまま身体を抱き起こすと、暫く抱いたままで
だがそうしていてもどうにもならない、と藤本は漸く花を飾り始めた
途中、佐藤の母親が茶を持ってそこへと入ってくる
「……可愛く飾って貰って。藤本さん、有難う御座います」
「いえ、そんな事は……」
「あの子も、きっと喜んでいると思います」
精一杯の、だがやはり壊れそうな笑顔を浮かべながら
暫くそのまま藤本の作業を眺め見ていた母親
不意に、何かを思い出したのか、小走りに部屋を出る
そしてすぐに戻ってきた母親持ってきたソレを見、
藤本の眼が僅かに見開いた
ソレは以前、藤本が佐藤へと送ったクマ型の鉢植えだった
「……中、この鉢植えとても喜んでいたから。ぜひ、使ってやって下さい」
すっかり花がかれてしまっているソレを
だが藤本は何とか笑みを浮かべると受け取っていた
「有難く、使わせて貰います。いいかな、中」
いいよ、と彼女は言ってくれているだろうか
頷いてくれているだろうか
そんな事を考えながら、クマを模っていた、既に枯れてしまっている花を全て取り除き
新しく彩りを添えて行く
飾り終えたソレを一番目立つ場所へ据え、取り敢えず藤本の作業は終了していた
式には出ない旨を母親に告げ
一足先に線香を備え、手を合わす
「また、くるから」
それだけを呟き、藤本は佐藤宅を後にしていた
アレ以上あそこに居ては自分が溢れてしまいそうだった
悲しい、寂しい、辛い、と
一番それを感じている筈の両親の前でそんな姿は見せられないと
藤本は早々に自宅へと戻っていた
店の前、未だ事故の名残が至る処に残る
其処に、佐藤が庇った少女が立て居るのに藤本は気づき
どうしたのか、少女の間へと膝を折ってやった
「これ、お姉ちゃんに。助けてもらった、お礼なの」
あの事故で至るところを擦り向いてしまっていたのか
絆創膏だらけの腕で差しだして見せたのは
何処からか摘んできたのだろう、シロツメクサの小さな花束だった
「……ありがとう。お姉ちゃん、今、ちょっとお出かけしてて居ないから。オジさんが渡しとくって事でいいかな?」
可愛らしい笑みを漸く浮かべて見せてくれた少女へ
佐藤の死を直接的に伝える事が藤本には出来ず
何とか、取り繕った笑みを少女へと返す
「……そうなんだ。じゃ、これ絶対お姉ちゃんに渡してね!」
約束だよ、と少女は元気よく手を振りながらその場を後に
その後姿が見えなくなるまで手を振ると途端に藤本から笑みが消えて失せ
そのまま店の中へ
受け取った、受け取り主を失った花束をカウンターの上へと置いた
すぐ後の事だった
もう一つ其処に、花束が置かれている事に気付く
「これ……」
それえが佐藤の作ったモノだと気付いたのはすぐで
彼女らしい、可愛らしい彩りに、藤本はフッと肩を揺らす
「……よく、出来てる」
笑みに揺らした筈のその肩が、段々と嗚咽によるそれに変わり
藤本はその場に膝を抱え座り込んでしまっていた

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