《MUMEI》

 







「…………じゃあさ、僕自身の情報を教えたら君達…帰ってね?」

「え…」








ここへ来てものの10分もたってない。
しかし当たり前のような表情で弥生を突き放すような視線を注ぐ……。


それにどことなく気付いた弥生は、手に持っていたカップに弱く力を込めながら








「……や、でも………」
「え?僕おかしいこと言ってる?言ってないよねぇ?」






ハハッと空笑い。姿勢を崩す










「何でもかんでも自分のやってることが常識と思わないでね?君は僕の家族?恋人?…………違うよねぇ、


…他人が俺の貴重な時間潰すな」





そこに笑顔は無く、ただ冷酷に冷徹に

煩わしいものを見る目で弥生を見下す…。








「―――と、僕は言いたいんだよ」







ニコリ。



また仮面のような薄っぺらい笑顔を現す








「ご、ごめんなさ…」
「いやいんだよ。わかってくれれば」






ふわりと柔らかい笑顔で弥生のひきつった身体を緩ませる。

そして、その様子を客観的に見続けていた色は男の笑顔に眉を潜める……











確かに弥生はひとつの目的を見付けると
図々しい行動をとってしまう…。

それはこの子の短所


だが、それに対するこの人の態度の浮き沈みは激しい。


いろんな仮面を被っているようでこの人の素顔がわからない………










そう考え、模索していると本人と目があった。


もうバッチリと









優しい笑みを見せていた刈真は、一瞬口元をつり上げ狂おしいほどの醜悪染みた笑みを色に向ける。





「――――――ッ!!」









―――――怖い!!








脳内にその言葉だけが強く響く











「……………かえろ……」

「へ?何、色」

「帰ろうっていってんの!!」









グイッと少々乱暴に弥生の腕を掴んで立ち上がらせる


弥生はいきなりのことに驚いて前のめりに身体が傾く。











「ちょっと!まだ黒尾さんのことわかってないってのに!!」

「じゃあ一人で帰るッ!?」










大声が事務所いっぱいに響き、弥生は目を見開く。

刈真は「うるさ――――」と漏らしながら耳を塞ぐ









「………っはァ、わかったよ帰る。それじゃ黒尾さんまた伺います」





反抗しようと色の顔を見ると、あまりにも必死な表情だったため諦めて色の言う通りにした………





「あっそぅ、さよなら――――」






色は目も会わせないまま事務所を出る、


刈真はニコニコと手を振りながら二人が事務所の扉から出ていくまで笑顔で見送った。












 

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