《MUMEI》
リビング
  
「何でだ、冬時!」
「ダメ、寮に帰るんだ」

 僕の部屋に置いてあった来たばかりの彼の荷物をまとめると、そのバッグを彼に渡した。

「右手使えないだろう、どうするんだ…」
「それは……ど、どうにかするよ」

 彼が理事長の孫と聞いたから、ビビって帰そうとしているワケでは無い。

 ただ…特定の生徒とだけ懇意になるというのは避けた方がいいし。

 それに、この関係はあまりにも宜しくない状況だから…。

「嫌だ!」
「嫌でもダメなんだ!!」

 昨日だって…朝目が覚めると顔の前がほんのり温かくて、何だか分からない感触にくすぐったくなって目を少し開けたら目の前に金髪の美少年が居た。

 驚く間もなくそのお人形さんのような青年が僕に覆いかぶさってきて、温かな息づかいと共に唇を重ねてきた。

 それは、子供っぽく唇を重ねるだけのキスだったけど、克哉君の興奮する息づかいとか…緊張が手に取るように伝わってきた。

 このまま一緒に居たら…何をするか分からない。

 …僕が。

「朝の事か…?」
「それは、気にしてないよ…」

 嘘だ。

 いまでもじっと子犬のように見つめてくる克哉君が、可愛くてたまらない…。


 僕に、こんな”男性”を好きになるような趣味は無かった。

 元々子供は好きな方だったから、僕はこの仕事を選んだんだ。

 だから毎日保健室に来る子供達を見ていて微笑ましくなる事はあっても、その子達に欲情したり、ましてやそんな視線で見る事は絶対に無かった。

 …筈だった。

 彼に会うまでは。

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