《MUMEI》 その弾みでカウンターから花束が落ち、それを拾ってみれば 其処には、佐藤が書いたであろう藤本へのメッセージが書かれていた ″可愛いクマありがと。それから、私に声掛けてくれたことも、ありがと″ 端的な、言葉 だが藤本には十分すぎるソレだった 「……(今)だけじゃなくて、これからもずっと生きて、話がしたかったよ。中……」 押さえこんでいた感情がそこで溢れ出す 年甲斐もないと解っていながら 頬を伝っていく涙をどうしても止められない 店先に座り込み、どれ位の間そうしていたのか 不意に店の中へ、穏やかな風が吹き込んできた その風が優しく店の中の花達を揺らしていく (愛美) その花風の中、藤本は佐藤の声を聞いた様な気がして 舞う花弁を一枚取っていた 「……俺と、話をしてくれてありがとう。中」 せめてその言葉だけでもこの風に乗って届いてくれたらと 藤本は花弁へと口付けながら、微かに呟いたのだった…… 前へ |
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