《MUMEI》

 




営業スマイル
営業スマイル


頭の中で暗示をかける。









「お待たせしました―、オレンジジュースでッ…………」










空気が凍る。いや、的確に言うと9番テーブルの周りだけ空気が凍る。




黒い髪黒いコート全部黒いのに瞳は深い紫










「こんにちは」











――――――黒尾さん









なんでこんなとこに…
すごく…………似合わん。






「こんなとこで働いてたんだね。似合ってるよその………プククッ、格好……ククッ」

「今日は機嫌いいですね」

「いつもいいよ―?」







嘘くせェ……。










「…………オレンジジュースです」







ドン!と黒尾さんの目の前にオレンジジュースを叩くように置く








「居酒屋のおばちゃんみたいに置かないでよ。愛がないなァ」

「愛ぃ!?あなたそういった類いに関して興味薄そうですけど」






そう冷たく言うと刈真は色に目線を合わせないまま軽く笑って腕を広げながら






「そうだね――つまらないねぇそんなもの。目に見えないものなんかに興味は湧かない」






馬鹿にしたような表情をしながら飄々と話す。







「それがあなたの素顔ですか?」






目線が合う。

下から見上げるこの人の瞳は
鈍く光っていて見透かされてるんじゃないかと錯覚してしまう。








「さぁ…………………どうだろうね―?」






試されてる感覚。

やっぱり怖い











「それよりさ―――」

「?」

「なんか高くない?ここの飲み物」








何時もの軽い口調に戻った。









「…………この店に来るのって」
「そう、初めて」

「なんで来たんですか?正直似合わないですよ」

「僕はいろんな店にいってどんな感じなのかとか、どんな人間が訪れるのかとかを観察するのが好きなんだ」

「暇人か!」

「僕は暇が大嫌いだから、いろんなとこに出歩くんだよ。そしたら面白い格好した君に会えたからいい収穫だったよ」

「お客様、黙りやがらねーと机との強烈なキスをさせで頂きますよ?」







いちいち突っついてくる人だ











「サービスして」

「は?」

「オレンジジュースが800円ってあり得ないから。納得いかない。元とりたいからなんかサービスして」






む、むちゃくちゃな人だァ―――――!!!








 

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