《MUMEI》
約束
そろそろ完全に陽が落ちようとする頃になり、ようやく女性はフラり
立ち上がり、汗ばんだ手で少年の手を握ると

「ありがとう、もう良くなった。 僕のお陰でさらし者にならずに済んだ。
本当に助かった。 これは洗って返そうな」

そういって汗でくたくたになった手拭を少年の手から取りました。


「いいです、別に。 ・・・でも、また会いたい。 お姉さんどこの人?」

「私か? 私は・・・坊やが来てはいけない世界に住んでいる」

「それじゃ分からないよ」

「遊女じゃ。 知っておるか?」

「え!!と・・・それは、噂だけなら・・・。 あの館に? そこはお姉さん
みたいな綺麗な人が沢山居るところ?」

「どうだかなぁ。 みんな化けてるだけやも知れぬ。そんな女狐見たさに
狸が来る場所じゃ。 どこに毒を隠しているとも知れぬ女狐とじゃれ合う
ために。 私はそこで体を張って、一晩中騙し合いをしておるのじゃ」

「お姉さんは狐に見えないよ。 すごく綺麗。こんな綺麗な人初めて見た」

「華やかであろう? 知っておる。 私はあの中でも群を抜いておる」

「やっぱり・・・」

「目立つことはな、時に仇となるのじゃ。 こうして頭巾を被らねば外も
容易に歩けん。不自由なものよ」

「何で隠すの? 遊女は昼間に顔を出してはいけないの?」

「男の欲望、女の羨望、嫉妬・・・もう、うんざりじゃ。 放っておいてほしい。
決していいものではない、ただのさらし者。 じゃが職場ではそれが活きて
おるがな」

「・・・お姉さんは綺麗だから・・・その・・遊女になったの?」

「そんな者がおるか?」

「じゃあ、好きでやっているんじゃないんだね?」

「そんな三流小娘と一緒にするでない。 さぁ、お母さんが心配するから
もうお帰り。 今日はありがとう、久し振りに無邪気な気持ちにもなれた」

「うん、帰る。 また会える?」

「そうじゃなぁ・・・」

「手拭い!やっぱり預けます。 だから今度会った時に返して」
女性は笑顔で少年から、それを受取りました。

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