《MUMEI》
告白
女性は改めて少年の容姿をまじまじと見つめました。

「おませな子じゃな。 興味あるのか?」

「興味じゃなくて、お姉さんが毎晩、誰かと愛し合う行為をしているのが・・・その、嫌で。 
ねぇ、いつまでそこで働くの? いつ辞めるの? 好きでやってるんじゃないんでしょ?」

「簡単な問題ではない」

「簡単だよ。 そんなところで働くことないよ! 体まで壊して・・・」

「この世界から身を引く時はな、身請けが殆どじゃ」

「身請け?」

「それは結婚かもしれね。 愛人かもしれぬ。 どちらにしても雇用が変わり、不特定
多数との関わりからは守られる身となる」

「なんか、お姉さん、幸せじゃないよ・・・それじゃあ・・・。好きな人とは一緒になれないの?」

「時々お客人と駆け落ちする者もおるが、所詮は遊女。 幸せにはなれぬ。 
男は夢を買いに訪れるのじゃ。 遊女を落とせば一生夢から覚めぬものと、幻想を抱いて
心を掛けるが、現実の女に成れ果てたらどうじゃ。 ・・・夢の終り。 ひと月もせぬうちに
用が足りぬと捨てられる。 そうやって女はまた、恥を忍んで館に戻るしかない。 
プライドの高い女はなぁ、戻るに戻れず、どこぞで身投げをしたとの土産話を、ご丁寧にも
お客人が持ってきよるのじゃ。 そんな薄明かりの世界で一際輝く光となって、一際目を
引く華となり、見知らぬ上者を呼び寄せる・・・笑えるなぁ、無きにも等しいプライドじゃろ」

「お姉さんが好きでもない人と毎晩愛を交わすのは嫌だな。 好きでもない人に身請け
されるのも嫌だな。 だってそんなの幸せじゃないよ」

「私の幸せを願ってくれるのか?」

「うん。 僕と結婚してください! 僕がお姉さんを幸せにする。 僕とだけ愛を交わすの」

「・・・ふふふ、 ありがとう。 また僕から元気をもらったな」

「本気だよ! まだ子供だけど、身請けに行くよ」

「身請けのことをよう分かっておらん。 簡単な問題ではない」

「だって、こんなに綺麗なのにコソコソしなきゃいけなくて、好きな人とも一緒になれない
なんて僕は嫌だ。 僕と結婚すれば、僕のお嫁さんとして堂々と一緒に街を歩くこと
だって出来るんだよ? それとも・・・僕とじゃ不釣合い?」

「坊や・・・ありがとう。 こんな風に純粋に想われたのは、私は初めてかもしれね。 
ずっと欲望の対象でしかなかったから・・・。 
私は今、とても幸せな気持ちでいる。  本当にありがとう」

「今だけじゃないよ。 僕だってもう愛を交わせるんだから!」

少年は女性を抱きしめてキスをしました。
「僕がずっと守ってあげる。 僕が全てあげるから・・・一緒に居てよ」
女性は拒みませんでした。 その温もりで、今日までの傷を癒すかのように少年を
優しく抱き締め、そしてキスをしました。

「幸せなキス・・・ 好きな人と・・・か。 考えたこともなかった・・・ いや、
考えないようにしていたのか」

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