《MUMEI》
約束をしよう
「キスするつもりなら、やめてください」

和の冷たい声に、亮は軽く眉をひそめた。

「なんで。」
「なんでも。」

和はゆったりと微笑む。その唇に含まれた、同じ男のものとは思えない色気に、亮の喉が小さく鳴る。

「ね。別にキスしなくたって、できますから。」

ね、と首を傾けて、和は亮のジャンパーに手を掛ける。その指先が心なしか小さく震えているようで、亮はそっと目を細めた。そのまま、和の喉元に噛りつく。

「んっ・・・。」

急激な痛みとも快感ともつかない衝撃に、和はきゅっと瞼をとじる。
そうして、滑らかに舌を動かしだした亮の頭を、ぱちん、と叩いた。

「こら。勝手なことをしないでください。」

そう囁いた和の瞳は、痛いほど冷たい色をしている。

「抱かせてあげるんですから、僕の言うことは聞いてもらいますよ。」

有無を言わせぬ口調に、亮はため息と共に頷く。それから、和の首筋にもう一度食らい付き、乱暴にネクタイを引き抜いた。

「ひとつ、キスはしない。ふたつ、僕はあなたの名前を呼ばない。く、・・・んっ!ちょっと、聞いてます?」

鎖骨を舐め始めた亮の襟足を、和は強く引いた。渋々といった様子で顔をあげた亮を、少しだけ荒くなった呼吸を整えながら睨む。
数秒見つめあったあと、亮はふ、と息をもらした。

「じゃあ、もう一つ条件だ。」

怪訝そうな和の唇を、指先でやわらかく撫でる。

「お前は俺を『大悟』と呼ぶ。な、悪くないだろ?」
出来る限りの優しさを込めて微笑みかける。
とたん、和の両目が大きく見開かれて、歪んだ。
ああ、泣くだろうな、と思ったけれど、結局ベッドに押し倒し何度絶頂に達っさせても、和の瞳から涙がこぼれることはなかった。ただ、か細い声で幾度か『大悟』と呟いたのだけは聞こえた。

次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫