《MUMEI》
出逢えた日のこと
『ずいぶん小綺麗な男だ』

これが、和を初めて見たときの亮の感想だった。

23才の春、彼はとある中国拳法の道場の門を叩いた。
中華料理店での仕事にも慣れ、生活もある程度安定してきた中、何か打ち込める趣味が欲しかったのかもしれない。また、もとより身体を鍛えることは嫌いでなかったし、何かしら新しいものに挑戦してみたかったのかもしれない。
道場自体は、弟子は三人だけのこじんまりしたものだった。
入門初日に紹介された兄弟子たち。気さくで物腰のやわらかい、一つ年上の大悟。やんちゃで、元気のよい将治。そうして、スーツを着こなし少しだけキザな和。

「宜しくお願いします。」
にこりと笑って握手を求めた和の目は、不自然に冷めていた。櫛の通された髪は、綺麗に撫でつけられている。差し出された指の爪も、きちんと切りそろえられていた。
『小綺麗な男だ。』とその手を握りながら、亮は思った。

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