《MUMEI》
少しずつ知っていく
「みんなで、食事にでもいかないか。」

そう大悟が提案したのは、入門して二度目の稽古の後だった。

「ほら、亮の歓迎会もかねて、な。」

そういって微笑む彼に、亮もありがとうございます、と笑い返す。

「お、いいじゃん。何食う?焼き肉?」

Tシャツを脱ぎながら、将治も目を輝かせた。まだ19だという彼は、笑顔にどこかあどけなさが残っている。

「和も、行くだろ。」

大悟の声に、ネクタイを締める和の手がとまった。その指は、確かに男の節だったものなのに、どこか綺麗で長い。
一瞬だけ開いた間に、この男はこないだろうな、と勝手に亮は思う。考えてみると、稽古の合間に大悟や将治と雑談することはあっても、和とはほとんど話さなかった。そのせいか、まだ年も知らない。どういう訳か知らないが、彼にはあまり好かれていないようだった。
ちらりと視線を亮に送ったあと、和は小さく微笑む。

「ええ、いいですよ。予定も特にないですから。」
「そうか。じゃあ、焼き肉でもいいか。」

なんでも、と言って和は大悟に頷いてみせる。その瞳がきちんと笑っていることに不思議な感覚を覚えながら、亮はベルトのバックルをとめた。



「それじゃあ、新たな弟子の入門を祝して、かんぱーい!!」

音頭は何故か将治がとり、4人でジョッキを合わせる。ぐいぐいビールを煽る将治に、未成年だろう、というツッコミはたぶん通用しない。

「そういえば、大悟さんは仕事、何してるんですか?」

亮が話し掛けると、大悟は肉の山を鉄板に並べながら苦笑した。

「ちょっと思ったんだか、別に敬語じゃなくていいから。」
「いや、いちおう年上ですし。」
「だったら、こいつはどうなる。」

肩をばしん、と叩かれた将治が、ゲホゲホむせながら大悟を睨む。

「いや、でも。」

亮が和へと移した視線をおって、大悟はああ、と頷いた。

「和は、気にするな。敬語は職業病みたいなもんだから。」
「年下の俺にだって、敬語だもんなー?」

将治が肩に回した腕を面倒くさそうに外しながら、和も頷いた。

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