《MUMEI》

苦笑に顔を緩ませていた
その珍しく穏やかな笑い顔に豊原も釣られ笑みを浮かべて見せる
互いの間にある柔らかな空気
暫くソレに浸っていると
「……散歩に、行くか」
刀弥からの徐な提案
唐突なソレに、だが気分転換もいだろう、と
豊原は頷き外へ
町へと出てみれば
意外にも活気があり、色々珍しい様子に
豊原はあちらにこちらにと見て回る
「余りよそ見ばかりしていると転ぶ」
先へ先へと行こうとする豊原の手を刀弥が掴み
そのまま引き寄せられる
勢いのいいソレに前のめりになってしまい
半ば倒れる様に刀弥に抱きとめられていた
「……大丈夫か?華巫女様」
そのままふわり抱き上げられ横抱きに
軽々と抱き上げられ、豊原は恥ずかしさの余り降りようとする
次の瞬間
その豊原達の前を、桜の花弁を纏った風が穏やかに通り過ぎて行った
何処から来るのか、その方向を向いて直れば
「……キレイ」
目の前に満開の桜の木が立っていた
淡い薄紅の花弁に降られながら、その美しさに豊原は歓喜の声をついあげる
「……華巫女様、もう少し近くで見るか?」
「え?」
今、豊原達が居るのはその桜木の根元
華達を間近に見てはいる筈なのだが
これ以上、どうしようと言うのか問うてみるより先に
豊原を抱えたまま、刀弥は地面を蹴りつける
ふわり軽く浮いたと思えば、次の瞬間居たのは桜木の太い枝の上だった
「すごい……」
見上げるより濃く映る花の彩り
始めてのそれに、豊原は更に声を上げていた
「中々にいい景色だろう」
「うん」
「……元気には、なったか?」
刀弥からの気遣う様な言葉
突然のソレに豊原は瞬間驚いたが、同時に嬉しくもなっていた
「私の事、気に掛けてくれたの?」
「……別にそう言う訳じゃない」」
言葉ではそう言いながらも
豊原に向けられる刀弥の表情は柔らかなソレで
やはり気遣ってくれているだろう事が、何となくだが知れた
「……案外、優しいんだ」
「は?」
「もう少し喋ってくれると、もっといいんだけどな」
そうして貰えると接しやすくなる、との豊原
刀弥は瞬間虚を付かれた様な顔をして見せ
だが、すぐに溜息に肩を落としながら
「……俺は、そんなに無口か?」
「だ、と思うけど……」
どうやら自覚が無いらしく、問うてくる刀弥
豊原は取り敢えずは肯定に頷いてやる
「……そうか」
「言われた事とか、ない?」
納得したのか、していないのか
表情一つ変えないまま、刀弥は暫く考えこんでしまい
その横顔を、豊原は何となく眺め見て見る
「……何だ?」
豊原の視線に気づいたらしい刀弥
まじまじと見られ恥ずかしいのか、僅かに照れたような表情を浮かべ顔を逸らすと
刀弥はおもむ鬼気の上から飛んで降り、豊原へと手を差し出してくる
降りてこいとのソレに差し出された手を
豊原は遠慮がちに取り、そのままふわり降りると
その豊原の手を握ったまま、歩く事を始めていた
何所へ行くのか、問う事をすれば
「……街に、行く。構わないか?」
逆に問うて返され、反対する理由も見出せないでいる豊原は頷いて返す
握られた手はそのまま
二人は段々と人通りの多い街中へ
一体何をしに来たのか
目的も何も告げないまま、唯只管に歩く刀弥の後ろを豊原は黙々とついて歩く
「……着いた」
到着した其処は、往来に様々な露店が立ち並ぶ界隈
刀弥は豊原の手を改めて引くと、その通りをゆるり歩く事を始めた
気分転換にいいだろうと、刀弥は感情少なに呟いていたのだが
逸らしていたその横顔が僅かに照れたようなそれになっているのを豊原は見逃さなかった
その事を指摘してやる事は敢えてせずに
豊原は途中見つけた、小さな装飾品が売られている店の前で脚を止める
「華巫女様?」
突然に立ち止まった豊原へ
刀弥は何事か、様子を覗き込んで見れば
「刀弥、これ見て。すごく可愛い!」
その装飾品を前にはしゃぐ豊原
楽しげな様に、刀弥は微かに肩を揺らし
座り込んで品定めする豊原の横へと同じ様に腰を降ろす
「……どれが、いい?」
「?」
「……好きなのを、選ぶといい」

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