《MUMEI》
普通の日常
三ヶ月もする頃には、亮は完全に道場の空気に馴染んでいた。

「亮。大悟の次は、僕とお願いできますか?」

和からの稽古の誘いに、軽く頷いて汗を拭く。固かった彼の眼は、あの歓迎会を境にしだいに柔らかなものへと変わっていった。今では、他の二人と同じように気軽に話ができる。
小さいけれど確実な進歩に、亮はどこか心地よさを感じていた。

「あ。じゃあ、それまで俺と組もうぜ。」

肩を回す将治を、和は片手で追い払った。

「嫌ですよ。将治は力加減を知らないじゃないですか。」
「なんだよそれ。あ!なるほど!和は加減してもらわないと俺に勝てないと」
「黙って下さい。」

そのまま稽古に傾れ込む二人に、大悟が笑いながら注意する。

「おい、怪我だけはするなよ。」
「しねーよ!!」
「しませんよ。」

拳を合わせながら必死な様子に、亮も笑顔をこぼす。
「なんか、兄弟って感じだな。」
「ああ、分かるぞそれ。あれだ、シベリアンハスキーの子犬がじゃれあってる感じだよな。」
「そういうことが言いたいんじゃないけどな。」

こいつも大概ズレてるな、と思いながら、改めて大悟に向き合った。

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