《MUMEI》
クライマックス
激村創は真剣な表情で語った。いよいよ授業も大詰めだ。
「それではこれから最重要ともいえるクライマックスの描き方を語り合っていきたい」
「G1クライマックス?」
「火剣は廊下に出ていろ」
「排除の理論か?」火剣は勝ち誇って言った。「さては3年B組金八先生を見ていないな」
仲田がすかさず反論する。
「激村先生は金八先生の比喩を語ったじゃないですかあ」
「うるせえ」
激村は講義を続けた。
「やはりクライマックスは盛り上げたい。ここで盛り上がりに欠けたら物語としてはかなりきつい」
「緊張しますね」仲田が言った。
「スパルタンXのクライマックスは、ジャッキーチェンVSベニーユキーデの壮絶バトルだな」火剣が笑顔で力説する。
「風の谷のナウシカは後半全部がクライマックスといっても過言ではない」
激村の言葉に仲田が同意した。
「あの後半の雪崩れ込みは凄まじいですね」
「雪崩れ式ブレーンバスター」
激村が睨む。
「火剣は映画得意だろ。もっと実例を挙げてみろ」
「よーし。感動して泣くなよ」火剣は得意満面に語る。「プロジェクトAのクライマックスは、ジャッキーとユンピョウとハンキーポーが海賊の頭のサンと壮絶バトルを展開する場面だな」
「壮絶バトルばかりですね」
「仲田テメー、人の批判するならテメーが実例を挙げてみやがれ」
火剣が海賊のような獰猛さで睨む。しかし仲田は涼しい顔で答えた。
「E.Tではやっぱり、月をバックに自転車で飛ぶシーンですね」
「あの瞬間は全米が泣いたな」
「日本人は泣かなかったのか激村?」
「揚げ足を取るな」激村が睨む。
「揚げ足を取ったらドラゴンスクリューからの膝十字固めはセオリーだ」
一進一退の攻防は続く。
「ランボーとコマンドーも最後の戦闘シーンがクライマックスだな」
「壮絶バトルに偏ってますよ」
「うるせえ」
「天空の城ラピュタは、物語の真ん中に壮絶なクライマックス級のシーンがあるな」
激村が言うと仲田がすかさず語った。
「パズーがシータを塔の上からさらうシーンですね」
「あの勢いでぶつかったら二人とも内臓破裂だな」
「感動に水を差すな」
「船長とお呼び」
「でも傑作は中弛みとは無縁ですね」
「40秒で支度しな」
激村が無視しきれずに言った。
「火剣。その2チャンネルみたいなノリはやめろ」
「掲示板をバカにしたな激村」
「別にバカにしてない」
「夜明けの刑事を歌うぞ」
「知りません」仲田が首を振った。
激村が強引にまとめる。
「とにかくクライマックスが決まるからラストシーンも決まる。クライマックスからラストシーンへ。ここは小説の最重要な部分だ」

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