《MUMEI》
磁力
アドレスを交換するまでに時間はかからなかった。
本名の「悠輔」「美香子」と呼び捨て合う仲にも・・・。
私達にはバーチャル特有の勢いがあった。


1日にやり取りするメール数も尋常ではなく、時折恐くなる程の
悠輔からの情熱に、私はいつのまにか引き込まれていった。


そして、不思議な魅力も感じ始めていた。

37年間生きてきた中で、殆ど手付かずでいた領域に反応する
感覚・・・・それがまさかこんなに年下の男の子からもたらされる
ことになろうとは・・・まさに驚異である。


悠輔から届く文字は、忘れかけた空虚な溝へ、確実に浸透していく。
 

砦を保ちながらも、一番手薄な場所へ甘い響きは毎日届けられた。




メールの交換を開始して5日目のこと。
今日も早朝から、悠輔からのメールを着信した。


「ねぇ、美香子?  まだ他の男とやり取りしてるの?」


>してるわよ。


悠輔のことは、既に特別視する存在となっていた。

けれども4日ばかり濃密なやり取りをしただけの、謎の多い年下君に
全てを切り替えれる年齢でないことは十分に理解している。
今、誰を選ぶかが一生を左右する選択であることを・・・。


「美香子、俺は本気だよ。 いつになったら俺だけを見てくれる
ようになる?」


>まだメールだけの関係でしょ? 私はメールで人を好きになる
タイプではないの。 悠輔も、もう少し落ち着こうよ。
もっとお互いを知ってからでも、そういう会話は遅くないわよ。


「確かにメールだけだけど・・・俺はこれまでと違う予感を感じて
いるんだ。 美香子が他の男とメールしているのは嫌だよ。
どうすれば俺だけを見てくれるようになるの?」


>直接会ってリアルな存在になってからよね。 
もちろん会ったからってその先に発展するかは分からないわよ? 
でもその先を考えられるかどうかの、決定的な時間にはなると
思うの。  お互いにね。


「俺、美香子とはもっとゆっくり関係を深めてから会うつもりで
いたけど、ずっとバーチャルな関係でいるのはもう嫌なんだ。
だから、会おう?」

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